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アスリートだけじゃない。自分に下されたジャッジに納得いかないすべての人たちに。 ソポクレス『アイアス』

生きているかぎり、人は他人と比べられる

 東京オリンピック、きのうの女子柔道・渡名喜風南選手の試合はカッコよかった。開会式のあとはなかなか忙しくてTV観る時間がなかなか取れませんが、渡名喜選手の勇姿だけは観ることができた。

 渡名喜選手は最終的に銀メダルを獲得した。銀メダルは栄光だ。でも銀メダルは、最後に1回負けないと手にすることができない。

 「1番」を決める世界は、1番以外の全員が敗者であるという厳しい構造になっている。

 スポーツであれゲームであれ学業であれ、またアイドルグループの人気投票であれ、アーティストや映画の賞レースであれ、営業マンの契約件数であれ、生きているかぎり、人は他人と比べられる。

 陸上競技のタイムトライアルのような、一試合での選手がほとんど同条件に置かれて有無を言わせない数字が出てくるものから、就職活動のようになにが作用するのかよくわからないものまで、人はつねに他人と比べられて生きている。

 僕は典型的な「呑気に生きている人間」だ。その僕でも、いまの職場に移る前、転職活動に何度も失敗している。いわゆる「お祈り」を何度もされてきた。一度などは思わぬ横槍が入って話が立ち消えになったこともある(いまとなっては結局、そこに移らないほうがよい職場だったと感じているが)。

「どうして私が負けなんだ」という狂気

 下されたジャッジに納得いかない人も多いだろう。

 日本の、ある現役小説家が、自分の作品が「正しく」評価されないことに怒り続け、日本の出版界や文芸ジャーナリズム、そして読者をもSNSで呪詛することをやめられないほどになったのを、むかし見たことがある(僕はその小説家の作品を5冊、小説以外の著書も1冊読んだ。全般的にnot for meだったが「評価する人はいるだろうな」とは思ったし、じっさいに賞を獲るなど、それなりに評価されていると思うのだが……)。

 婚活中の女性には、どうして「自分にふさわしい」相手があらわれないのか、と思っている人も多いという。

(〈女性が正確に把握して自分のレベルに合った男性を選べているなら、婚活コンサルに頼らなくても相手が見つかることがわからない程には頭が悪いのがあなたです〔https://twitter.com/hikarin22/status/1418849020810866693〕〉)

 下されたジャッジがどうしても納得いかない人というのがいる。そしてこのことが、ときには人の「狂気」だったりもする。不条理なジャッジであっても、その不条理を諦めて受け入れることが、正気の証だったりするのかもしれない。という話をきょうは書く。

英雄だからといって、ジャッジを粛々と受け入れるとは限らない

 どんなに偉大な業績を持つ人でもそうなってしまうことがあるようだ。

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