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岩波少年文庫を全部読む。(86)世界が思うままにならないと泣きわめく母親は赤ん坊だ。 山中恒『ぼくがぼくであること』

(タイトル画像は角川つばさ文庫版の書影です)

優秀な兄妹のなかの冴えない三男


山中恒
の長篇小説『ぼくがぼくであること』(1969。岩波少年文庫)の〈ぼく〉平田秀一ひでかずは5人兄妹の第4子三男。

大学生・高校生の兄ふたり、中学生の姉、小学生の妹は学業優秀な「いい子」ですが、秀一だけは足並みが揃わず、うだつが上がりません。

小学校6年生の秀一は、昭和の「教育ママ」である母に嘆かれ、日常的に口うるさくダメ出しをされています。同じ小学校に通う妹マユミが、秀一の学校での不名誉な事績を母に告げ口するというダメ押しもありました。

夏休み開始と同時に衝動的な家出

夏休み、秀一は公園前に停車中のトラックの荷台に衝動的に乗りこみます。トラックは走り出し、ひき逃げをしてしまいます。
秀一は運転手に気取られぬようトラックを脱出。田舎の民家に逢着します。そこには小学校6年生の夏代とその祖父が住んでいました。

秀一はその家で、都会の住宅街では経験できないいろいろな体験を積んでいきます。
夏代の祖父は、夏代の母についてなにか秘密にしていることがあるようです。また正直まさなおという感じ悪い男が、夏代の祖父の所有する山を狙っているらしいのが気にかかります。

世界が思うままにならないと感情的になってしまう幼児のような母

夏休みの終わり、秀一は帰宅を決意。
そのころの彼にとって、最大の抑圧者だった母親はじつのところ、

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