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岩波少年文庫を全部読む。(92)家父長世界vs.公権力 アストリッド・リンドグレーン『山賊のむすめローニャ』

アストリッド・リンドグレーン『山賊のむすめローニャ』(1981。大塚勇三訳、岩波少年文庫)は、中世北欧ふうの(ただしキリスト教が出てこない)世界を舞台としたファンタジーです。

灰色小人たちが棲む森の奥の崖の上にある城で、雷雨のなか、ローニャは生まれました。父は山賊団のボス、マッティス。その夜、落雷で城がまっぷたつに割れ、《地獄の口》と呼ばれる深い裂け目ができました。

「おまえ、どこ中?」以前は「おまえ、どこんち?」

ローニャが10歳くらいになって、森へと出ていく経験を始めます。あるとき、城の半分と残り半分との間の《地獄の口》に落ちそうになったとき、ビルク・ボルカソン少年と出会います。

ここでスカンディナヴィア人の伝統的な「父称」について知っておくといいでしょう。スカンディナヴィア人はもともと姓ではなく父称を用いていました。ビルク・ボルカソンは「ボルカの息子ビルク」です。ビルクに息子ができたら、ファーストネームのつぎに「ビルクソン」みたいなものがつく、と考えればいいわけです。
アイスランドではいまでも姓ではなく父称を用います。男子には「ソン」(son)、女子には「ドウッティル」(dóttir = daughter)がつく。
アイスランドを除く北欧諸国では、スウェーデンも含め、現在は父称ではなく姓を用いています。用いられる姓には父称由来のものが多く、たとえばデンマークでもっともザラな姓のひとつアンデルセンは、アンデシュ(アンデルス)の息子という父称からきています。

そういうわけで、この名乗りの場面で、少年は父の名を明かしているわけです。「おまえ、どこ中?」以前は「おまえ、どこんち?」的世界だったわけで、the家父長制!って感じの怖さがありますね。

山賊版『ロミオとジュリエット』

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