岩波少年文庫を全部読む。(57) 民話に風景と時間を持ちこむ 木下順二『わらしべ長者 日本民話選』
木下順二×赤羽末吉
劇作家・木下順二の、死の6年前の仕事です。
本書は、かつて岩波少年文庫で『日本民話選』(1958年)という形で出たものを、何度か増補改訂したすえに、2000年に刊行されたものです。
装画を担当した、大塚勇三再話のあの『スーホの白い馬』(1961/1967。福音館書店《日本傑作絵本シリーズ》)で有名な赤羽末吉は、その10年前に亡くなっています。ですからこの2000年の版で新たに描き下ろした絵はないわけですね。
これ、全部で22のお話が入っています。「大工と鬼六」「こぶとり」それから「彦市ばなし」「三年寝太郎」「天人女房」などの話が収録されているわけです。
冒頭に「かにむかし さるかに」が入ってます。いわゆる「猿蟹合戦」ですね。
この話はこのままの文章で独立して、《岩波の子どもの本》のシリーズで刊行されてます。
それは赤羽末吉ではなく清水崑の絵でした。ひょっとしたらそのほかにも、この本に収録された22のお話のなかに、独立して一冊の絵本として刊行されている作品があるかもしれません。
近代的描写in民話
岩波少年文庫では、すでにこれとはべつに稲田和子編『かもとりごんべえ ゆかいな昔話50選』(2000)が刊行されています。笑えるお話ですね、落語的なお話に近いものを多く収録しているのが特徴かな。
稲葉和子さんのほうは、より聞き書きに近い形でシンプルで短くお話をまとめています。
いっぽう、この木下順二の『わらしべ長者 日本民話選』は明らかに、木下順二の作品として近代的な物語記述のスタンスで書かれています。1話が20ページを超える長いものもあります。じっさいに音読すると、20ページを超えるお話というのはけっこう長いんですよね。そういう書きかたになってます。
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