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『さみしい夜のおやつ〜アーモンドチョコレート』

『さみしい夜のおやつ〜アーモンドチョコレート〜』


 アーモンドの実は脳内の神経群『扁桃体』に形がよく似ているから、そう名付けられたらしい。
体内部位の働きとしては負の感情に作用し、恐怖や不安、怒り、ストレス反射やそれらに対しての処理を行う部位であるらしい。

 人類がそんな不吉なアーモンドを食べるようになった頃、きっとまだ人体の中の扁桃体は見つかっていない。アーモンドの発見→扁桃体への名付けがきっと順番なのだろう。なにせアーモンドは『アメンドウ』として聖書に出てくるくらい古い時代からあるらしい。


 でも味は美味しい。私のお気に入りのアーモンドチョコは、近所の洋菓子店が作っているもので、キャラメリゼしたアーモンドにチョコをまぶした一粒で二度美味しいアーモンドチョコである。
 その店ではバイトしていたこともあり、精神的に参って社会復帰が難しい時にリハビリとして雇い直してもらった恩のある菓子屋だった。

 リハビリバイト初日、たった数時間でへとへとになった帰り際に、バイトリーダーの人が賞味期限切れのアーモンドチョコをくれた。懐かしい気持ちもありながら、何気なく一粒口に放り込んだ時、涙が出るほど美味しく感じたのを覚えている。
 もう風味が飛んで売り物にはならないから、と言われたアーモンドチョコはそれこそ脳の扁桃体が黙り込むくらい甘くて、美味しかった。
「美味しいと言うことは、幸せだから」と言った病院の先生の言葉をふっと思い出す。


 体力も落ち、精神力も無くなってしまった自分は社会からも落伍してマイナスの状況に陥った。そこから這い上がるには、それまで以上の体力や精神力が必要で、いつかの幸せのために現在の幸せの全てを投げ打つほどの覚悟が必要なのかもしれない。そこに許された唯一の幸福が甘味である、とはいつかの記事でも書いた通りである。

 だからこそ、なのか。
 でも、なのか。
 甘いものが好きで良かったと思う。
 少なくともその期間は幸福に囲まれて、幸福を人に売る素敵な仕事ができていたのだから。そういう事を今度は文章でやっていきたいが、これが難しいのはまた別の話としておきましょう。

 不安や恐怖は体内で蠢いて、いつも私に悲しみの情をもたらす。それはどうやっても切って切り離せないもの。
 それを同じ名前の果物、アーモンドで中和するのである。
 何か因果のようなものを感じつつ、今日もまたアーモンドチョコを口に放り込み、お守りのようなそれの味を楽しむのです。


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