質問箱015:佳作と準入選の差
※Twitterの質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。
【質問】
【解答】
①酒見賢一先生の才能論
準入選は、大賞の賞金を払う気がない編集部が苦肉の策で……あ、これは岡崎つぐお先生が、特選になったエピソードでしたね(島本和彦先生の『アオイホノオ』情報)。ただ、大賞・入選・佳作と賞は設けていても、大賞を出す気がない編集部が多かったのは事実で、だからこそ新興のガンガンは毎回大賞を出すのを売りにしていましたね。
準入選と佳作の差は、編集部ごとに違うでしょう。なので、佳作について少し。例えば審査員が3人・審査基準が◎◯△✕の4段階の評価の新人賞(漫画でも小説でも)があったとして。三人の審査員が◎◎◎の投稿者は、大賞デビューでしょう。めったにいませんが、星野之宣先生や諸星大二郎先生とかのレベルでしょう。
デビューしやすいのは、三人が◯◯◯の投稿者で、これが入選になりやすいタイプです。そして佳作になるのが◎◎✕の、評価が分かれるタイプです。そして、プロの作家になってから伸びるのは、このタイプとされます。これは『後宮小説』や『墨攻』で知られる、酒見賢一先生が、語っておられた内容です。
②佳作デビューは出世枠
どれも平均点で、大きな問題点がないタイプの◯◯◯よりも、欠点はあっても見処もある◎◎✕タイプが、その弱点を克服すれば、克服しなくても人並みになれば、一気に才能が開花する可能性が高いです。事実、高橋留美子先生は佳作デビューです。審査委員長の藤子不二雄先生が絶賛されていたのに、です。
作家の評価は、3科目で100点100点0点で合計200点の◎◎✕タイプが良い、とも言えます。全科目が75点の◯◯◯タイプは、合計225点で一見良さげですが。80点80点80点にするのはかなり大変です。でも◎◎✕タイプは、弱点を平均点にすれば、100点100点60点にすればあっという間に追い抜いていきます。
しかし投稿者から◎◎✕タイプを見抜くのが、とても難しかったですね。なぜなら、欠点は長所よりも悪目立ちします。なので、せっかくの長所を見逃されがちです。編集者の側にも、問題点を指摘するのが指導だと、勘違いしている人間は多いです。本当は、見過ごされがちな長所を見出すのが、編集者の仕事なのに……。
③目利きは分母に依存す
講師陣の一人の喜多野土竜が、中堅出版社のマイナー雑誌の編集者だった時代、有名大手出版社のメジャー誌でデビューできず、流れてきた投稿者が多かったです。そこには、◎◎✕タイプさえ希少でした。その中から、◎✕✕タイプを見つけ出して指導することが、必要だったのです。多くの投稿者は画力のなさゆえ、才能が埋もれていました。
トキワ荘プロジェクトやMANZEMIのデビュー率は、比較的高いほうだと思います。その理由は、才能がよりどりみどりの大手出版社と違って、大手が見逃した才能を見抜く目を、養わざる絵を得なかったためです。なにしろ、ジャンプだったら1ヶ月で集まる投稿作の半分以下しか、1年で集まらないのですから。目利きにならざるを得なかったから……当然ですね。
逆に、大手出版社でよりどりみどりの才能に触れていたので、自分には指導力やプロデュース力があると思っていたら、専門学校の受講生に才能ある人材がほとんどこず、さっぱり育てられないと愚痴る、元編集者の噂に聞きます。名伯楽も、シマウマをサラブレッドにはできないのです。
なので、プロ野球の野村克也監督の考え方に、とても共感します。弱者は敗者に非ず。弱者には弱者の戦い方がある、と。「自分には素晴らしい才能が隠されている」と思いたい投稿者とは、相性が悪いですが。
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