見出し画像

伝わる文章には「丸裸になる勇気」がある

心にじーーんと伝わる文章は、必ずしも「上手」なわけじゃない。
この記事にも書きましたが、それを強く実感したエピソードがあります。

文章表現教育者である、山田ズーニー先生の文章表現講座に参加したときのこと。私たちはいくつかのグループに分かれ、自己紹介のスピーチをすることになりました。

そこには文章を本業にする人だけでなく、大学生、イベント会社に勤務する方、公務員の方、主婦の方、アルバイトで配達をする方など、職業も世代もバラバラの書くことに興味のある人が30人ほど集まっていました。

その中で私がいちばん印象に残ったのが、50代くらいの小柄な女性のスピーチです。一人一人が紙に書いた自分のテーマについて話すことになっていて、その女性が掲げていたテーマは「愛」。

育ててきた子どもがようやく成人したけれど、家にずっと居るばかりで、社会に出ることができていない。私は子どもが小さい頃から、安全のことばかり気にかけてきたように思う。でも今考えると、もっと抱きしめたり、話をしたり、愛を伝えることをしてくればよかった。

(ご本人が特定されないよう少しだけ話を変えました)

そんな内容を、ぽつり、ぽつりと小さな声で発表していました。

その女性は少しうつむきながら、時おり口ごもったりしながら、時間をかけて、言葉を選びながら喋っているようでした。スラスラとよどみのないスピーチをする人もいた中、その女性のスピーチは上手かと聞かれれば、決して上手いというわけではありませんでした。

しかし、たった2分くらいのスピーチだったのに、なぜかその場にいた人みんなが、女性の話に惹きこまれているのがわかりました。

女性の話す様子をじっと見守り、息づかいに合わせるように胸を詰まらせ、ひとことも聞き漏らさないよう真剣に耳をすませて。スピーチが終わったあとは、温かな拍手で包まれました。

いっぽう私は、高校生から広告の仕事をしたくて、広告会社に入って、今はコピーライターで・・・という、転職活動の面接で話すような当たり障りのない内容を、話し慣れたスピードで話しました。

その後ズーニー先生から「この中でいちばん心が揺さぶられたスピーチをしたのは誰だと思いましたか?」というような質問があり、いちばん多くの票が集まったのが、その女性でした。

「ああ、わかる」私は妙に納得しました。


その女性のスピーチと、私のスピーチ、何が決定的に違っていたのか?

今になって考えてみるとそれは「丸裸になる勇気」でした。

私はその女性の話を聞いている時「見ず知らずの大勢の前で、こんなに自分の内面をさらけ出せるのってすごいな」と思いました。

女性が今、自分の奥底に抱えている本当の思いや葛藤を、等身大のまま、自分の言葉で伝えている。自己紹介の場で、長年の育児の後悔を話すなんて、きっと私にはできない。

その背後にわきでる勇気と覚悟に、耳を傾けずにはいられませんでした。おそらく聴いていた他の方も、同じことを思っていました。

私たちは何か表現する時、ついつい少し背伸びして見せたり、良いことを言ってみたくなりがちです。でもそうした下心は、書いたり言ったりしなくても、受け手は感じ取れてしまうもの。

自分の本当の気持ちをさらけ出すのは、誰だって怖い。人前で丸裸になるくらいか、もしかしたらそれ以上かも?そうした「勇気」のある表現に、私たちは惹きつけられ、尊敬の気持ちを抱かずにはいられないのです。

こう見えて、私はいまだに自分の気持ちを綴るのが苦手です。でもこの女性のスピーチを思い出すと、私も少しずつでいいから、自分の気持ちを丸裸にして伝えていきたいと思うのです。

最近、平日は毎日更新しています。
よかったらまた読みに来てくださいね。

小森谷 友美
noteで書ききれない話はTwitterで

文章の書き方シリーズ記事もあります


いいなと思ったら応援しよう!

小森谷 友美|大学院に通うコピーライター
サポートしてくださった方へのおまけコンテンツ(中華レシピ)を現在製作中です。随時お送りします!

この記事が参加している募集