メイと呼ばせる女(4)
下弦の月がビルの谷間をうっすらと照らしている。
下唇にタバコを張り付けたまま、裏通りの壁に寄りかかり、
壮一と泣かせの隆二がチンピラに焼を入れているのを眺めていると、
大通りの方から、女の叫び声が聞こえた。
「壮一、警察が来る。それぐらいにして行くぞ。
ほら、隆二もいつまでもぶん殴っていないで、行くぞ。」
「はい、こいつどうします?」と、壮一が聞く、
「そうだな、事務所につれて行って、奴の上を呼び出すか。」
「でも、こいつはうちのシマ内で、薬を流していたんすよ。」
「まぁ、殺しても、つまらん。
上を呼び出して金を引き出した方が得だ。」
「へい、じゃ、事務所につれていきます。」
そう言って、壮一と隆二がチンピラを引きずって、
裏の方へ歩いて行くのを見送り、
表通りに向かうと、
見たことがある女が携帯電話で警察を呼んでいる。
「おい、なにしている?」と、
声を掛けるとキャーと叫び逃げ出そうとする腕をつかみ、
「おい、俺だ。わからないか?」
驚いているのと、恐怖で震えている女の顎をつかんで、
顔を俺の方に向けると、気が付いたのか、あわてて、
「ろ、路地の奥の暗がりで、喧嘩だと思って、警察に電話をしただけよ。
お、お願い、龍の様に殺さないで、」と、泣きながら訴える。
「龍は殺してなんかいないぞ。同じ組織のうちで、そうそう殺さない。
指をつめて、追い出しただけだ。どっかで生きているだろう。」
「ほんとう?」
「本当さ。いいから首を突っ込むなよ。昼間は普通のOLなんだろう?」
「普通のOLだから、喧嘩を止めようと電話をしたのよ。」
「いいから、警察の来る前に行くぞ。」
「どこへ?」
「いいから、ここから、離れるんだよ。」
ごねるメイを引きずるように、バー雅につれていく。
扉を開けながら、
「ママさん、今晩は、メイと同伴で飲みに来た。」
「あら、あら、めずらしい。こんな早い時間から、どうしたの?」
「仕事のついでに、この女に声を掛けられてさ、
この間のお礼に飲みに来てって、同伴できたと言う訳さ。」
「まぁ、メイも隅に置けないわね。いつの間に、仲様くなって。」
「席を作ってくれるか、出来るだけ奥で人目に付かない所がいいな。」
「はい、はい、お客さんに見えない所がいいんでしょ。」
「いかにもやくざと見える俺が、居たら客が入らないからな。」
「メイ、さっさと着替えて、席についてね。」
メイは、うなずいて奥に消えていく。
「今日は、ゆっくりできるの?」とママ。
「いや、まだ仕事があるので、直ぐに帰るよ。」
「危ない仕事?」
「俺らに危なくない仕事はねーやな。」
「それもそうね。」
メイが現れると、
「若頭さんは、まだ仕事があるそうだから、すぐに帰るって。」
「はい。」
水割りを作りながら、顔の傷跡が気になるのか、
ちらちら顔を見ているので、
「これは、昔あった抗争で受けた傷だ、大したことは無い、気にするな。」
メイの携帯がバイブレーションで電話がかかったことを伝える。
「警察だったら、間違えだと言えよ。」
「はい。」と言い、電話に出るために奥に消える。
「おーい、ママさん。俺はこれで帰るから、これで。」と、お金を出すと、
「いいわよ。一杯や二杯は私のおごりで。」
「そうか、悪いな。」
「また来てね。」
バー雅を出て組事務所に向かう。
新宿の喧騒の中で、メイの驚いた顔を思い出して、少しおかしく思う。
事務所では、壮一と隆二が、飽きもせずチンピラをぶん殴っていた。
「こいつの上は誰だ?」
「確か、新宿怒涛会の影山だと。」
「序列は12番くれーか?」
「もっと下だと思います、兄貴。」
「影山を、シマの外れの駐車場に呼び出せ。」
「へい。」と言い、隆二が電話をかけ始める。
「壮一、おめえの手下も呼んで、駐車場に集合させろ。」
「わかりました。」と、壮一も電話をする。
「影山がごねていますが、どうします?」
「いいよ、そうしたら会頭に、けつを持って行く、と伝えろ。
困るのはおめーだとも言え。」
「へい。」
隆二が続けて電話をしている。
「二時間後に、来るそうです。」
「わかった、おまえの手下も集めとけよ。」
駐車場で待っていると、影山がベンツでやってきた。
「そいつが、何をやったかしらないが、チンピラのやったこと。
どうにでもすれば良い。」
「そうかい、こいつはおめえの指示でやったと言ったぞ。」
「それがどうした?俺には関係はない。」
「そうか、それじゃ、
こいつを連れて怒涛会の会頭に会いに行くが、良いんだな。
うちとオタクの間を取り持った房総の親分さんが、なんて言うかな?」
「いや、まて、待ってくれ。」
「こいつがバラまいた、薬の分とそれを拾い歩いた手数料を払いな。」
「今は、手持ちがない、明日には払う。」
「そうかい、それじゃ、隆二、明日、ここで受け取れ。
それまでチンピラはあずかる。」
「わかった。」
後は隆二と壮一に任せて、事務所に戻る。
半日で300万の上がりだ。
人件費を考えると、たいしたことは無いが、隆二と壮一にすれば、
結構な金額になる。
ふと、メイの顔を思い出した。
こんな金額を稼いでいるのを知らないと、
龍みたいなチンピラに騙されるんだろうなと思う。
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これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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