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「ディーリアスの音楽」サー・トマス・ビーチャム THE MUSIC OF DELIUS Sir Thomas Beecham Bart. C.H.,

父の遺品のレコードを、ざっくり数えてみたところ700枚ほどありそうだ。CDは900枚ほどありそうだ。仕方ない、一生聴き続けよう。

円盤たちは父の手によって作曲年代順に並べられていた。棚の一番先頭はグレゴリオ聖歌や中世の音楽、終端は現代日本の歌曲になっている。私にはこの並び順がいいものかどうかはわからない。
かたっぱしから聴こうとすると、最初は聖歌や中世ヨーロッパの音楽だ。手強い。一応聞いてみるが、「ふーん」と思って、棚に戻すだけで終わった。とりあえずバッハまで飛ばす。バッハの音楽は適度に耳馴染みがあり、気分がよい。しかしバッハのレコードを全て聞くとなると、大量すぎてこれも手強い。手強いし、すでにちょっと飽きている。その後のハイドンも長い。モーツァルトはもっと長い。ベートーベンなんかべらぼうに長い。
父はなんだってこんなに大量にレコードを収集したんだ!!

…楽しんで聴こうとしていたのにいつの間にか絶望の叫びをあげている。勝手にルールがあるような気持ちになって絶望している。
なんて愚かな。

よし、気軽に手に触れたものを聴こう!えいっ!これか?これだな!
大きな文字で「ディーリアスの音楽」。その横に「サー・トマス・ビーチャム」と書いてある。

スピッツ/ロビンソンに初めて出会ったときの気持ちが蘇る。
何?曲名がロビンソンってことかい?何国人?日本語で歌っているんだから日本人か、あはは。

YOASOBI/夜に駆けるに出会ったときも、少し似たような気持ちになったなと思いながら、気を取り直して箱の中からライナーノーツを取り出す。作曲家フレデリック・ディーリアスと、その音楽の最大の理解者で指揮者のサー・トマス・ビーチャム。了解。
ディーリアスは1862年生まれ。森鴎外と同じ年だから、活躍年代は日本だと明治期にあたる。イギリス生まれ。どこかで夏目漱石とすれ違ってる可能性、ある?

レコードを聴き始めて、驚いた。

とても聞きやすい。複雑な旋律が続いても、つらくない。
1枚目の裏面、「海流」という曲がかかる。素敵だ。
次に「イルメリン」前奏曲。これも素敵だ。
甘い。甘いけどさわやかな音楽。一気に5枚のレコードを聴き終えた。5枚目の後半は音楽ではなく、インタビュー音声だったけど、それも一応聞いた。

ライナーノーツの中田喜直の文「ディーリアス賛」を読む。

「ディーリアスのように繊細で美しい音楽が、たとえばヴィヴァルディの四季のように、やたらに沢山演奏されるようになったら大変だ。有名になり過ぎた観光地のようにはさせたくない気持もある。あまり知られてない美しいものを、多くの人に教えたい気持と、そっと自分だけのものにしておきたい気持と両方あるのかもしれない」中田喜直 ディーリアス賛(1977)

ディーリアスが日本ではよく知られていない作曲家であり、あまり演奏されないとも書かれている。

シードル。という言葉が浮かんだ。リンゴが原材料の、お酒のシードルだ。
甘くてさわやかで飲みやすい。おしゃれ感もある。だけど、果実酒の中でワインほどの市民権を得ることはない。
だが、それがいい。
たまに、家でひとりで、だれとも分かち合わずに愉しむ音楽。
これは良いものを知ってしまった。
また気が向いたら、今度はシードル片手に聴いてみよう。

今日はここまで。くるくる。

収録曲:
SIDE 1
夜想曲「パリ」―大都会の歌 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
河の上の夏の夜 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
SIDE2
海流 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/ジョン・ブラウンリー(バリトン)&ロンドン・セレクト合唱団
オペラ「イルメリン」~前奏曲 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
SIDE3
オペラ「フェニモアとゲルダ」~インテルメッツォ(間奏曲) サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
アパラチア―古い黒人奴隷の歌による変奏曲(Part1) サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/BBC合唱団
SIDE4
アパラチア―古い黒人奴隷の歌による変奏曲(Part2) サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/BBC合唱団
「フロリダ」組曲~「ラ・カリンダ」 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
オペラ「コアンガ」~「ラ・カリンダ」 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
オペラ「コアンガ」~終幕の場 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/ロンドン・セレクト合唱団
SIDE5
エヴェンテュール(むかしむかし) サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
「丘を越えて遥かに」―幻想序曲 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
SIDE6
夏の庭にて サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
「ハッサン」―ジェイムズ・エルロイ・フレッカーの戯曲への付随音楽~インテルメッツォとセレナード サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
「ハッサン」~無伴奏無歌詞合唱 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/ロンドン・セレクト合唱団
「ハッサン」~終幕の場 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/ヤン・ヴァン・デア・グヒト(テノール)/王立歌劇場合唱団
SIDE7
ブリッグの定期市―イギリス狂詩曲 サー・トマス・ビーチャム指揮/交響楽団
春初めてのカッコウを聞いて サー・トマス・ビーチャム指揮/ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
オペラ「村のロミオとジュリエット」~楽園への道 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
SIDE8
いずこへ(秋)(ビョルソン)/すみれ(ホルスタイン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
イ・ブラシル(フィオーナ・マックロウド)/かわいいヴェネヴィル(ビョルソン)(歌唱:ドイツ語) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
夕べの声(黄昏の幻想)(ビョルソン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム(ピアノ)
子守歌(イプセン)/夜ウグイス(ヴェルハーヴェン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム(ピアノ)
イルメリンのばら(ヤコブセン)/彼女はとても色白で、やさしく、かわいい(ベン・ジョンソン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/ジェラルド・ムーア(ピアノ)
屋根の上の大空は(ヴェルレエヌ)(歌唱:フランス語)/月白く(ヴェルレエヌ)(歌唱:フランス語)) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/ジェラルド・ムーア(ピアノ)
SIDE9
イルメリンのばら(ヤコブセン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム(ピアノ)
屋根の上の大空は(ヴェルレエヌ)(歌唱:フランス語)/すみれ(ホルスタイン) ドーラ・ラベット(ソプラノ)/サー・トマス・ビーチャム(ピアノ)
わが心の女王に(シェリー)/愛の哲学(シェリー) ヘッドル・ナッシュ(テノール)/ジェラルド・ムーア(ピアノ)
サー・トマス・ビーチャム 自著「ディーリアス伝」を語る サー・トマス・ビーチャム(語り)/エドマンド・トレーシー(インタヴュアー)
SIDE10
「人生のミサ」~サー・トマス・ビーチャムのラジオ解説 サー・トマス・ビーチャム(語り)
「人生のミサ」~第2部への前奏曲 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/デニス・ブレイン,イアン・ビアズ,レイ・ホワイト(ホルン)
「人生のミサ」~第2部第3曲への前奏曲 サー・トマス・ビーチャム指揮/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団

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