とある竜と薬剤師さんのハナシ

病気柄、服薬は欠かせないので1ヶ月に一度は調剤薬局のお世話になっています。

病院と同じ建物。秋から冬に入り、作業所への出勤の時に、玄関の周りの落ち葉やごみの掃除をしている薬剤師さんにごあいさつする機会も増えてきました。

今年、作業所では2回、病院内での小規模な販売会を行いました。

普段は病院に委託販売という形で所内で作ったハンドメイドの小物を作っています。

私が作業所に入ったのがちょうど10年前。今でこと私にとっては体調を維持するためにないと困る存在ですが、変化や新しい場所に馴染むのが苦手な自分は、安定して通えるようになるまで7年ほどかかってしまいました。

小物作りも10年の間にずいぶん種類が増えました。最初は8mmビーズで作るビーズコースターが中心だったのですが、今はビーズ手芸(マスコットからアクセサリーまで)、ヘアゴム、ミサンガ、レジン、クラフトバンドの籠などなど……。

中でも羊毛フェルトは製作者の個性が出る、とても面白い手芸です。

作れるものもマスコットからアクセサリーまで幅広く、ビビットな子、パステルの子、ふんわりした子、がっしり気味の子……。

いろんな作品が日々うまれています。

特に私が好きなのが、とある作業所の利用者さんの作品です。

ご本人もとても本当に優しくて穏やかで、冬場に飲む甘い紅茶のように温かい方なのですが、出会った時から絵本作家さんのようなあたたかみのある色合いと、独特な愛らしい表情の作品に、いつもこちらが元気をもらっています。

バリエーションもすごい。竜、おばけ、小鳥……。どれをとっても、すぐにその方の作品だと分かる味がしっかり出た、唯一無二のテイストなのです。

そんな優しい作者さんのあったかな羊毛フェルトですが、委託でも販売会でもいつも人気です。

イチオシの作者さんの羊毛が売れていく時に立ち会えると、自分のことのように嬉しく、なぜか誇らしい気持ちになります。

(私がその子たちを作っているわけではないのですけどね……笑)

自分が本当に心から好きだと思ったもの、良い!と思っていたものが目の前で他の方の好き!という気持ちと繋がった時というのは、何にも変えがたい充足感と喜びがあります。

コロナ禍でなかなか私個人もハンドメイドのイベントなどには出店できていない状況が続いているのですが、忘れかけている対面販売の良さをしみじみ実感する、小さいけれどたしかに売り手とお客様の『好き!』が詰まった、素敵な販売会でした。

そんなこんなで、大好きな作者さんの羊毛フェルトの竜が2匹ほど薬局のお嫁に行ってから半年。

先日、診察まであと一週間というどたんばで薬が一種類、一週間分だけ切れてしまったのを受け取りに行った時です。

病院のお昼休みの時間帯だったこともあり、私以外の患者さんはいません。

お昼のワイドショーの喧騒からついつい目をそらし、ふとお薬ポケットやオブラートやゼリーなど、服薬補助商品が並ぶ棚に目をやったら、半年ぶりの再開が待っていました。

大好きな作者さんの可愛らしい羊毛の優しい竜が、棚をすいすいと泳いでいるのでした。

ーー半年前に巣立っていったあの子たちだ!

薬剤師さんに呼ばれ、薬の説明を受けたあと、私は思わず

「あの竜、作業所の販売会の時の子達ですよね」

と、嬉しさのあまり訊ねていました。

「そうです、あの近くの作業所の……」

担当してくださった薬剤師さんがそう言いかけたとき、後ろの薬置き場からひょいと出てきたのはいつも朝、薬局周りを掃除してくださっている薬剤師さん。

「いつかその子(作者さん)が来た時に喜んでもらえるかなと思ってね」

掃除をしてくださっている男性の薬剤師さんは、ちょっとはにかみながらそう付け加えていくださったのでした。

想定外の優しい理由に、私はマスクの下で口を開け、目を見開いたまま、まばたきひとつ分くらいの間、まったく動けませんでした。

あの竜は、他の大勢の患者さんを癒すために棚を泳いでいたのではなかったのです。

たった一人、たった一人の、来るかどうかは分からない、作者さんを薬剤師さんたちと待ちながら……他の方の心も癒していたのだ、と……。

薬剤師さんたちの温かなお気持ちは、きっと作者さんに伝えます、と約束し、私は一週間分の薬を受け取って、薬剤師さんたちに見送られながら薬局を後にしました。

外は11月の札幌。からからに乾燥し、吹き付ける風も冷たいはずなのに、胸の奥はじんわり温かい。

素敵な作者さんから生まれた竜に入ってしまった温かな気持ちの欠片は、たしかに薬剤師さんに伝わっていて、今もまだ薬局の棚を心地よく泳いでいます。

きっと。




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