1000年後への行進。常田大希 破壊と構築、2992。
常田大希さんの3ヶ月に密着した、NHKドキュメンタリー「常田大希 破壊と構築」を見た。
表舞台ではライブやテレビ番組で演奏している姿しか見ない。
それがミュージシャンであり、それ以上の姿を見せないのがアーティストらしさではあるのだが、あれだけの完成物をどのように生み出しているのかという制作過程は今までほとんどわかってなかった。King Gnuやmillennium paradeの楽曲をどのように完成させているのかが今回明るみになった。
この取材で密着していた間ずっと作っていた曲が、「2992」である。
1992年生まれの彼らが生み出したものを1000年経っても残っていてほしいという意味を込めてこのタイトルがついている。2021年現在の時代描写と、変わらない美しいものを併せ持った珠玉の一曲となっている。
楽曲制作のスタートは、部屋で構想を練り上げるところから。
一人の作業部屋と映像制作チームのPERIMETRONの集合部屋が隣同士になっていて、何かが見えてきて解消されるまで、作業部屋で頭をフル回転させて楽器を鳴らしている。今回の曲は歴史あるオーケストラと新しい音を組み合わせるようにして一つを作り出すと決めた。
作業部屋は一人。素材となるものは自分で奏でて録音する。この幅広さを許容できるのも常田さんなのだろう。
ツアーの準備期間に並行しながら、一人籠って創造する。ある程度固まったところからまた破壊していく。ここから構築して、また組み換えて、、、
クリエイションの過程では、もっと多くの人に相談しつつ、意見と技術を盛り合わせて作り上げているものだと思っていた。
私の予想は、半分当たっていて半分違っていた。
クリエイティブすぎる集団、その映像の中では、”クリエイティブ暴走族”と称されていた、常田さんの周囲にいる人たちは、最初から話し合いの形をとっているわけではなさそうだった。
構想が浮かんで、作業部屋である程度形が見えてきてから、周りに伝える。そこで初めて複数人での創作物に変わっていったような気がした。
その伝わったものを自己を媒介して形を変えられるか、面白みを加えられるかを周囲のクリエイティブ暴走族は真剣に話している。どの現場にも常田さんはいて、最終決定権を握るリーダーになっている。
音楽を構築する。
長すぎる歴史を見つめながら、その流れに背いて自己流を形成する。
それは信念のようにも見えたし、枷にも見えた。どこかで目に見えない焦りを肌感覚で感じていてもおかしくない。世間からの期待も次第に高まるものだから。
そこに耳を傾けすぎずに何かを生み出そうと葛藤する姿を初めて見られたのは何よりも貴重であった。
一切の妥協と油断を許さない制作への姿勢がまっすぐで、最後の最後まで目の離せない人物だった。
制作の成果を披露した「2992」の演奏は、この一時点の時代に囚われない壮大さと音の厚さをオーケストラが担いつつ、常田さんが中心で指揮しつつ演奏している。
制作と同じように、常田さんが心臓部として動いている生命体の絵が浮かぶ。
1000年後を見据えた一曲に立ち塞がるものはない。一体どこまで突っ走っていくのだろうか。
真面目に語るシーンの合間に、お茶目で不器用さがたまに目立つところもまた魅力なのだろう。なんで愛くるしいとか思ったんだろう。笑顔がまた大人ぶってなくて素敵。やっぱかっこいい。
「2992」がお披露目された2021年をこれからどのように色付けていくのか、目が離せない。