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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』憧憬の交差点
■ Watching:『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
私が小・中学生だった2000年代、もちろんインターネットは今ほど普及していなかった。携帯を持っておらずパソコンだって毎日起動するわけじゃなかったけれど、それで特に支障なく過ごしていた。今は何をして過ごすにしても大抵インターネットに繋がった状態でいるなあと、改めて振り返って驚く。自分が大人になったからというのもあるけれど、時間の使い方が本当に変わった。
じゃああの頃は何をしていたのだろう?そう考えてみると、雑誌を読むことは特に好んでしていたことの一つに挙げられる。漫画雑誌やティーンズファッション誌を、スーパーのちょっとした本屋さんでよく買ってもらっていた。だいたい月に1冊、または2ヶ月に1冊ぐらい。ずっと捨てずに本棚に溜めてあって、古くなったものでも構わず繰り返し読んだ。ファッションには特に興味がなかったので、季節がどうだとかはあまり関係なかった。
最近はインターネットで情報を得ることが多い。でも、雑誌に対する憧憬はずっと抱き続けている。というより、より強くなってきたと言うべきかもしれない。
インターネット上の情報がどこか画一的に見えるのに対し、雑誌の紙面はすごく自由に見える。ページをめくるごとに全く違う印象をこちらに与える。その1ページ1ページからこだわりを感じる。そして、それらは1冊の中にぎゅっと閉じ込められている。終わりが存在するということも良いところだ。本当に気に入った1冊は、ときに宝物のように感じられる。
雑誌への憧れを抱いている私にとって、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、その憧れを固めたような映画だった。
「雑誌の最終号を作る」という、枠となるストーリーが外側にあり、その内に記事として4つのストーリーが嵌め込まれる。そんな枠物語の構成がとられている時点でトキメキは最高潮だった。
そして嵌め込まれたストーリーも一つ一つがそれぞれ異なる色を持っている。あるストーリーはモノクロの映像が用いられ、あるストーリーはアニメーションが用いられる。
それは私が大好きな"雑誌"そのものだった。
4つのストーリーの中で特に好きだったのは、IN BRIEF「自転車レポーター」とStory 1「確固たる名作」。
「自転車レポーター」
街の紹介というのがまず好みのテーマである。
そして、それが小気味良い音楽とその音にピタッとはまった映像で進んでいく。目にも耳にもリズミカルで心が躍った。
「確固たる名作」
舞台が監獄という時点で好き。
それぞれの登場人物の、ひと目見てそれと分かる風貌も堪らなかった。投獄された芸術家・モーゼス・ローゼンターラーのベニチオ・デル・トロ、美術商・ジュリアン・カダージオのエイドリアン・ブロディ。
ストーリーを語るJ・K・L・ベレンセンの様子が途中で現れるのもニクかった。
■ Reading
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』パンフレット
全体を通して読み応えのある素敵なパンフレットだったが、中でも山崎まどかさんのコラムが良かった。
「カンザス・イヴニング・サン」の「フレンチ・ディスパッチ」というタイトルと設定で、ウェス・アンダーソンの来歴と憧れが表明されているということが理解でき、面白かった。
文化の今日的意義を問う3つの〈愛〉のファンタスマゴリア:映画『フレンチ・ディスパッチ』池田純一レヴュー
タイトルの地名に込められた意味合いについてはこの記事でも解説されている。
地理的に見て、アメリカ(というか北米大陸)のど真ん中にあるカンザス、しかも、アメリカの価値観筆頭の「リバティ=自由」を名乗る街に、フランス発の「世界」の情報が届けられるという建て付けだ。
映画『フレンチ・ディスパッチ』池田純一レヴュー
■ Listening:アフター6ジャンクション
ムービーウォッチメン:『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
(2022.03.11)