都会で稼ぐだけが仕事じゃない。地域にみる働き方と新しいしごと図鑑 〜ソトコト編集長 指出さんと語る夜〜
お金を稼ぐのは都会で、地域では稼ぐことは難しい。
でも、地域での暮らしに憧れを抱いている。
そんな、「地域ではたらく」ことに関心を寄せている人、増えていませんか?
ソトコト編集長である指出一正さんをゲストにお招きし、新潟でNPOの運営をしながら、東京のサイボウズ株式会社で複業している竹内義晴さん。地域のしごとを学ぶことができる、地球のしごと大學を運営する高浜大介さん。の三名による対談イベントが3月11日に行われました。
タイトルは「都会で稼ぐだけが仕事じゃない。地域にみる働き方と新しいしごと図鑑 〜ソトコト編集長 指出さんと語る夜〜」です。
イベントレポートになっているので是非、最後までご覧ください。
最初のプレゼンテーターは、地球のしごと大學の高浜さんです!
地球のしごと大學 高浜さん
高浜さん:株式会社アースカラーの代表を務めながら、地域での働き方や、持続可能な地域づくりに貢献するしごとを学ぶことができる「地球のしごと大學」というNPOを運営している高浜大介と言います。
アースカラーというのは、ブルーカラーやホワイトカラーといった仕事の形でなく「地球と共生していくための仕事」という意味を込めて名付けています。今日は、私の思う「地域のしごと」の特徴を話していこうと思います。
●地域のしごとの特徴とは?
高浜さん:一つ目は、都市と比べて個が生きて働ける機会が多いということ。都会型の仕事ですと組織において、本当はやりたくないと思う仕事も多いですが、地域にはやりがいのある「しごと」がたくさんある。組織や肩書きに付随した自分ではなく、自分という個性を前面に出すことのできるしごとをしやすいことが特徴です。
二つ目は「エコ、ソーシャル、サスティナブル」につながりやすいこと。地域でのしごとは、都市に比べて偽りがなく地球や社会に良いというしごとが多いと思います。
●稼ぎ一辺倒ではない「地域のしごと」
高浜さん:農山漁村には3つの「しごと」があります。
それは、「暮らし」「務め」「稼ぎ」というものです。
「暮らし」というのは衣食住の自給生産などです。お金にはならないですが、豊かに生きるためには必要なしごとです。家事や掃除子育てなどもここに当てはまりますね。
次に「務め」というのは地域で暮らすために共同していく作業のことです。例えば、草刈りをしたり祭りを運営したりすることなどです。
そして「稼ぎ」というのは実際に賃金を稼いでいくためのしごとです。都市の人はこの「稼ぎ」一辺倒になっていると僕は思います。この影響で「暮らし」と「務め」がほとんど無くなってしまっているんですよね。
ではなぜ、「稼ぎ」一辺倒だと、ダメなのか。
僕は、「暮らし」や「務め」をすることで、生活の営みの中での幸福を感じたり、地球に貢献する喜びが味わえると思っているからなんです。
また、地域で暮らしていくと面白いことが起きます。それは、「暮らし」も「務め」も「稼ぎ」も融合していってしまうんですよ。
「暮らし」の発酵食品を作るというしごとが高じて「稼ぎ」になったり、無理に遊ぶという時間を取らなくても、しごとが遊びになっていったりします。こういった、地域での暮らし方が浸透していくと、ライフシフトが進んでいくのではないかなあと思っています。
サイボウズ 竹内さん
竹内さん:私は、新潟県の妙高市というところでNPO法人しごとのみらいを運営してます。そして、複業で株式会社サイボウズでブランディングや広報の仕事をしています。サイボウズでの働き方としては、リモートワークを週に2回、月に1回の出勤となっています。
私の経歴を少しお話すると、私は根っからのエンジニアでした。ただ、IT企業に勤めているときに心が折れてしまう経験があったんですね。今、働き方改革などで「残業を減らせばOK」みたいな感じですが、僕の場合は、人間関係が問題でした。
それがきっかけとなり、人の支援を通してチームのみんなが活き活きと働けるような環境作りを始めました。今は働きやすい組織づくりや、情報発信を生業としています。
今日お話をするのは、私が地方拠点にしている理由と、地方×複業の可能性について話をしたいと思います。
●地方を拠点にする理由
竹内さん:私が、地域ではたらく理由としては、地方を守りつつ自分らしく働きたいからです。
日本の人口は急激に減少していますよね。2020年までに50万人の人がいなくなるといわれています。これは、鳥取県の人口が大体54万人なので、1つの県が消滅するといっても過言ではないほどのペースです。
そうすると何が起きるかと言うと、地方では企業が人材不足で困ったり、行政や地域の維持が難しくなってしまいます。もうあと10年もすれば大変なことになってしまうでしょうね。また、地方から大学進学や就職を機に東京に来てしまうと、なかなか地元に戻れないというのも問題です。
それは、地方に「やりたいしごとがない」と思われているからだと思います。だから、私のような働き方がITを通じてできるようになってきてるので、こういう働き方がいいなと思われるようなことを体現していきたいと思っているんです。
●地方×複業の可能性
竹内さん:私は地方にいながら都市部の会社で働くスタイルですが、都市部に住んでいる人が地方の企業で複業すれば面白いことができるんじゃないかなと思っています。それは具体的に何かと言うと、都市部と地方を定期的に行き来するスタイルをつくるということ。
地方に興味があったり、地元に帰りたいと思っている人が仕事を通じて定期的に地方に行けるようにするんです。
僕は今サイボウズで働いていても、気軽に地元に戻ることができますし、こうなると移住しなくてもいいし、かつ地域のことに関わることができます。
これを逆にして、地方において、広報やマーケティングなど人材不足が加速している分野で、都市部の人に来てもらうと、地方企業の人材不足が補えます。
また、祭りをはじめ、今は地域行事の維持が難しくなりつつありますが、その期間だけ手伝ってもらえれば地方にとってありがたいはずです。
いきなり地域に入るのは難しくハードルが高いと思われがちですが、仕事を通じてその地域との関わりがあれば、一番重要な人間関係を作ることができるので、祭りがあるからふらっと寄っていく、といった感じで緩やかに関係を育むことがでると思っています。
都市と地方の2つでキャリアを築くことは、地方にとってもメリットがあると思いますし、必要な時だけでもいいから関われるというのは、昨今キーワードになっている「デュアラー」といった、都会と地方を行き来するライフスタイルにもあっていると思います。
今必要なのは、地域活性ではなく「地方維持」だと思います。でも、地方で複業できれば、そんなに難しいことではないんじゃないかなと私は思っています。
制度が整いさえすればこういった動きは加速していくと思いますし、現に岩手県では、「遠恋複業家」という、都市部にいながら地方で複業する人を募集していて、すでに数人、企業とマッチングしたそうです。
こうした、地方と都市の働き方を融合していくスタイルは今後のトレンドになっていくと思いますし、そういったことができる企業や自治体が増えていくと考えています。
ソトコト編集長 指出さん
指出さん:こんばんは。指出です。
一般的に、僕の仕事はソトコトの編集長だと思われています。でも実は、僕は頭の中では魚釣りのことでいっぱいです(笑)
今日は「関係人口」ってなんで大事なのという話と、関係人口から生まれた地域のしごとについて話そうと思います。
●関係人口とは
これからの地方創生には、関係人口という言葉なしでは成立しません。
昔ながらの観光案内所なんてもう必要ないかもしれません。これから必要なのは人と人との関係を作る「関係案内所」です。
関係人口とは、観光以上移住未満の人たちのことを指します。地域に行くのは移住先を探してる人もいるかもしませんが、大体の人は東京で面白い仕事をしているし、移住するのはハードルが高いと思っています。
だけど、地域には東京にはない地方なりのおもしろさがあります。関係人口とは、観光で物見遊山で帰ってくるだけじゃなくて、地域の人と会い、その人と人との出会いに心ときめかせ、地域との関わりを楽しむ人たちの人口です。
関係人口が広まると何がいいのか。いくつかプロジェクト紹介してみたいと思います。
●スナックミルキー
指出さん:奈良県の天川村で、名古屋の女の子たちがスナックを立ち上げた話です。
二泊三日でインターンシップを開催しまして、その時に、何かひとつプロジェクト立ち上げてくださいとお願いしました。そしたら彼女たちはスナックをやりたいと言い始めました。
天川村なので、「スナックミルキー」というスナックを立ち上げました。彼女たちは地元のお酒やお菓子を持ってきます。
それが天川村の人たちにとって面白いんですよ。続々と人が集まってきてなんと80名以上の人がスナックに集いました。そしたら面白いことがおきたんですね。あまりの賑わいに、たまたま来てた観光客のカップルがスナックミルキーを覗いてきました。
面白そうだからとスナックで一杯だけでも飲んでくかと店に入り、ママとちいママにこそっとこんな話をしました。実は今日彼女の誕生日でそのプレゼントで、天川村にやってきたと。
そうすると、ヒソヒソ話でサプライズを祝ってあげようとスナックミルキーで作戦が始まりました。サプライズで送ったバースデーケーキは豆腐でできていました。だって、夜10時を過ぎると店なんて開いていませんから。だから近くの豆腐屋さんにお願いして分けてもらいました。
このスナックミルキーは、天川村をなんとかしようと地方創生のプロフェッショナルが開いたプロジェクトではありません。地元の百戦錬磨の村人たちが立ち上げたプロジェクトでもありません。おもしろそうだからとやってきた名古屋の女の子たちが始めてみたプロジェクトです。
スナックミルキーはこのあと区長さんに依頼されて定期的に天川村でひらくことになりました。そして、スナックミルキーは全国規模のプロジェクトになっていきました。
仕事をフルタイムであることがほんとに仕事なのか。仕事オフセットさせることも仕事の一つなのではと思います。
これは、名古屋の女の子たちが面白そうだから、地域の人が喜んでくれるからと言って始めたことが、仕事とは言わなくても楽しんでコミットできるものになっていることからもわかると思います。こういう働き方がこれからの仕事なのかもしれません。
●ワンコの森あそび体験
指出さん:三重県の大台町という町に、広大なトヨタが所有している森があります。この場所を林業として使うのは、なかなか難しい土地でして。それをどんな風に活用しようか、考えを重ねた結果1つの面白いプロジェクトができました。
それは、プロジェクト発案者の小田さんが「大好きな家族のワンコと一緒に自由に遊べるドックフィールドの森として使えばいいんじゃないか」という提案でした。
この「ワンコの森遊び体験会」というのは去年開かれたものなんですが、自分の家族のわんこが自由に走り回っているのを見るのは家族としてはとても幸せですよね。
私はすべてを魚と紐付けて考えるんですけど、小田さんも自分の好きなことと紐付けて考えたのでとてもモチベーションが上がったんじゃないでしょうか。
それに、来ていた家族も一緒に運動して健康寿命伸ばすことができる。これは立派なソーシャルプロジェクトです。こういうことが社会をホントに面白くしていく遊びであり、仕事であると思います。
これが、関係人口のロジックなんです。
人がいなくなることを嘆いているの場合ではありません。そこに住んでる人が増えることがほんとに地域の魅力をつくることになるんでしょうか。地域に住んでいなくても関わる人を増やすことが、今の時代に地域の仕事を考える上でもとても重要なことだと思います。
地域ですと自分の好きなことを紐づけて考えやすくなるし、遊びと仕事が融合していくと私は思っています。
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三人によるトークセッション
モデレーターの、田中さんが問われたのは三人の「仕事の定義」。
その中で、三人とも共通していたのは、仕事と生活は繋がっているものということでした。
「ワークライフバランス」という言葉を例にあげたのは、竹内さん。
この言葉は、ワークとライフが別物でそのバランスについてどうするかという話ですが、本当はライフ(生活)の中にワーク(仕事)があるので、仕事は生活の一部だと思うということ。
だから、楽しい仕事であれば、5時で退社しなきゃいけないというのは逆にストレスに感じてしまう。どちらが充実しているとかではなく、仕事が充実すれば、生活も充実していくものと考えるのが良いのではないか、ということでした。
次に、「なめらかさ」をあげたのは、指出さん。
どんな生活や仕事で、起きたことも繋がっていることが重要。例えば、今日このイベントに来る前は、内閣官房での仕事をしてきたが、それがこの場で話すネタになっているということ。一方で、休日に息子と過ごした時に、子供が放課後に遊ぶコミュニティが重要だと感じて、この気づきも自分の仕事に生かされていっている。
こうした、昨日起きたことが今日の仕事に繋がっていく、引っかかりがなく次の場所で共有できていたり、平日と休日で内容が全く変わるのではなく、日常と仕事がなめらかに接続していることが自分の仕事の中で重要なことだと答えていました。
さいごに、「モチベーションが上がること」をあげたのは、高浜さん。
自分が好きなことや、やっていていて意義があるもの、自分の中でモチベーションが上がるものが仕事をする上で大事なこと。
それは、「稼ぐ」という目的だけではなくて、自分の幸福度が上がったり、生活の質が上がったりするもの。お金というものを媒介しなくても、生活が豊かになっていくもの。それが仕事ではないかと答えていました。
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終わりに
トークセッションの後は、交流会や、1本1,000円以上する「なかほら牧場(※)」の牛乳争奪じゃんけん大会などが開かれ、内容盛りだくさんなイベントとなりました。
今回登壇された3名は、地域の場所も関わり方も異なっていましたが、地域のしごとにおいて、遊びや生活といったことと、融合していくことの共通点で繋がっていたことがとても印象に残っています。
そして、イベントのタイトルにもあるように、都会での「仕事」と、地域での「しごと」の違いについて、考えを深めることのできたイベントだったと思います。
人それぞれ考えはあると思いますが、都会での「しごと」は、稼ぎや市場価値をあげるもの(いわゆる「仕事」)が多く、地域での「しごと」は、暮らしや趣味、自己実現の手段のためのものが多いのではないか、と3名の話を聞いて思いました。
これからより変化していく時代を自分らしく生きるために、地域での「しごと」をさらに自分に引き寄せて考えいきたい、そんなことを強く思うイベントでした。(イベントの様子は、togetterからもご覧いただけます。)
※ なかほら牧場は、地球のしごと大學のフィールドワーク先でもある岩手県岩泉にある牧場。山で24時間放牧というスタイルをとる酪農で、その製品は東京の都心で、高価格で飛ぶように売れている。
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