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【創作論】僕と歴史を改変して架空藩を作ってよ!

 どーも、筑前助広でございます。
 絶賛発売中の「谷中の用心棒 萩尾大楽 阿芙蓉抜け荷始末」ですが、お陰様で多くの方々にお手に取っていただいているご様子。
 舞台となった姪浜では、作品を片手に作品の現場を歩いていた人がいたとか、いないとか。そんな話も伝わっております。
 一部書店では置いてない店もあるので、その時はお取り寄せ、或いは通販サイトをご利用いただければ幸いです。

 では、ここからが本題です。

この度刊行した「谷中の用心棒 萩尾大楽」の舞台は、斯摩藩しまはん。博多の西隣、早良郡の室見川以西と志摩郡、そして怡土郡の一部を領し表高十万石の外様藩です。

 勿論、そんな藩など史実に登場しません。僕が創作した、架空の藩です。
 そして「谷中の用心棒」は、いわゆる架空藩ものに分類されます。
 架空藩もの、というジャンルがあるかどうかはわかりませんが、藤沢周平がメジャーにした海坂藩以降、多くの時代小説に見られる設定で、僕もその流儀を多用して数多く手掛けています。

 この藩を創り上げる際に、考えた事があります。

 それは、
「ただの架空藩では印象を残せない」 
 ということ。

 固定ファンも実績もない駆け出しの新人作家が、架空藩を出したところで、「あ~簡単な方へ逃げたな」「藤沢周平的なやつね」と思われかねません。
 ならどうするか? と、僕が目を付けたのが架空戦記に使われる歴史改変要素です。

 ただ斯摩藩を存在させるだけではなく、この藩が存在する「もう一つの日本史」を作る事にしたのです。

 まず場所の設定ですが、場所は福岡・博多(以下、福博)と決めていました。
 それは福博が故郷なのでとい事もありますが、江戸・大阪・京都とは違う、手垢が付いていない都市圏でシリーズを作りたかった、という大きな理由があります。
 その上で、福博をバットマンのゴッサムシティのような犯罪都市として描きたかったのです。
 ですが、福博が犯罪都市になるには、そうなるだけの理由が必要です。黒田家統治下でしたら、まずそんな事はならない。お膝元ですから、統治はしっかりと行うものです。
 なら、お膝元でなくせばいい。本拠から離れれば、それだけ治世の箍が緩むもの。では、どうしたら福博を殿様のお膝元でないように出来るか?

福博を天領にすればいい。

 そもそも筑前に架空藩を創出するには、黒田家の存在が邪魔でした(失礼)。
 この藩がいる限り、筑前に架空藩は作れないし、福博を天領に出来ない。

ならば、改易すればいい。

 そうして始まった、黒田家改易・福博天領化計画。
 黒田家が存在しない可能性を、新訂黒田家譜を辿りながら考え、四つの選択肢を思いつきました。

①そもそも黒田家は存在しない(黒牢城で官兵衛死亡)
②長政が関ケ原で家康と握手した瞬間に斬りかかり、暗殺失敗からの改易
③黒田騒動で改易
④黒田継高の逝去で無嗣断絶


 一番ベターなのは④なのですが、タイミングが1775年では遅すぎる。その次は③なのですが、個人的に黒田忠之が大好きなので、そんな事はしたくはない。
 では①~②か?とは思ったのですが、作中に説明を加えるのにひと手間がかかる(この時点で福岡と黒田家の縁が無いので、説明を入れると不自然)

 という事で、断腸の思いで③を選択しました。

 余談ですが、僕は黒田忠之が暗君といわれる事が我慢なりません。
 彼は、暴君ではあったかもしれませんが、暗君ではなかった。
 その辺は、下記の「私本黒田太平記」で忠之に関わる箇所を読んでいただくとして――

👇私本黒田太平記👇
https://ncode.syosetu.com/n2039cj/

 そんな感じで、黒田家が改易された世界線での筑前筑後豊前はこのような感じになります。

 黒田家を黒田騒動で改易させたわけですが、これには考証上の弊害が生まれ、思わぬ苦労をする羽目になってしまいました。
 それは黒田騒動が決着した寛永10年(1633年)2月以降に行った黒田家の政策で生まれたものが、一切使用できないという事。
 つまりは、黒田騒動以降に建立された寺社・開かれた町は基本的に使えないのです。
 何かと理由をつければいいのですが、そこにわざわざ項を割く必要もありませんし、それは本筋とは関係ないので「労多くして功少なし」というものです。
 なので、その辺の描写を巧妙に躱していく必要がありました。

 ただ苦労だけではなく、面白い事もありました。
 それは黒田家が消滅した事で、独自の人生を歩んだ偉人の存在です。
 ネタバレになるので名前は控えますが、本作には一人の史実人物、そして改易により人生が変わった史実人物の子孫が登場します。
 僕は彼らに、「黒田家がいなければ、こうなったであろう人生」を歩ませました。これが非常に面白かった。

 そもそも、これは大サトーの「征途」の手法ですね。
 この作品では、軍人として生きる世界線の司馬遼太郎が登場しますので。未読の方はお勧め!……かなぁ。人は選びます。

 という事で、このような架空戦記で見られる歴史改変を用いて時代小説を書いてみたわけですが、これに対して好意的な感想が寄せられて、ホッとしている次第です。

 先日ご紹介した時代小説SHOWの管理人・理流様も「本書の魅力の一つは、斯摩藩という架空の藩がネーミングも含めて実によく考えられて設定されている点」と歴史改変要素を褒めてくださり、「現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変」の著者・二日市とふろう先生も下記のようなツイートをしてくださいました。

  そういえば、佐々木譲先生が「抵抗都市」で歴史改変の警察小説を発表されていますし、実はニーズがあるのでは? と思います。
 架空藩に歴史改変要素を加えたのは、僕が初とは言いませんが、大きなチャレンジだったと思います。
 未読の方は是非とも読んでいただいて、僕の歴史改変はどうであったか、ご感想を賜れば幸いです。

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