有期労働契約において不更新条項の付された雇用契約書に署名押印しても直ちに労働契約を終了させる明確な意思を表明したとは言えないとした事例

福岡地裁令和2年3月17日判決 判例時報2455号

事案
・30年に渡って1年期間の雇用契約を29回更新。
・下記の労契法の改正に伴い、は原告には適用していなかった契約社員の雇用期間の上限を原則として最長5年とする就業規則の規定(最長5年ルール)を原告にも適用し始めた。
・平成25年以降、毎年契約更新時に平成30年3月31日以降は契約を更新しない旨の条項(不更新条項)が入った雇用契約書を原告と取り交わしていた。
・平成30年3月1日に雇用期間満了で雇止め。従業員が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めて提訴。

【平成24年法律第56号による労契法の改正】
 同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合に、労働者が無期労働契約への転換の申込みをすれば、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ(無期転換申込権)、期問の定めのない労働契約が成立する(労契法18条)。
 同改正部分は平成25年4月1日に施行され、同日以降新たに締結または更新された有期労働契約から通算契約期間の算定が始まったので、無期転換申込権は最短で平成30年4月1日から発生する。

雇用契約終了の合意について本判決は、
・長期間にわたり本件雇用契約を更新してきた原告にとって、被告との有期雇用契約を終了させることは、生活面等に大きな変化をもたらすもの。
・よって本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり、これを肯定するには、原告の明確な意思が認められなければならない。
・不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは、原告にとって、本件雇用契約が更新できないことを意味する。
・したがって、このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって、直ちに原告が本件雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない。
・また、かえって原告が雇用契約終了とは相反する行動をとっていた。
以上から、雇用契約終了の合意は認められないとした。


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