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スラム街でマラウイ愛を歌った『Mbatata(さつまいも)』ソング
■ボニャとバタタで現地人の仲間入り
「日本人なのにそれしてるの?それ食べてるの?おまえはもうマラウイ人だ。」なんて言われると、悪い気はしない。
1個10円の焼き芋を持って歩いていると、みんなそんな温かい目で見てくる。「日本にもMbatata(バタタ=さつまいも)あるんだよ」と話すと驚かれる。
(→アフリカの最貧国マラウイで味わう至福のスイーツ「バタタ」)
Bonya(ボニャ=干し小魚)も同じ。ひと山30円で、青くて薄いビニール袋に入れて売ってくれる。手に持って歩くだけで、通りすがりの人たちの笑顔の種になる。
「チャイニーズがBonya持ってるぞ!」
少し遠巻きに見ているマラウイ人が、からかい半分興味半分で言ってくる。
そんな時は、すかさず距離を詰めて
「日本人だけど。Bonyaはンシマの最高のおかずだよ。」
と返す。(※ンシマ=マラウイの主食)
「アッアー、おまえもBonya食べるのか⁉」
次の瞬間にはガッチリ握手をしている。
なんだか受け入れられた気持ちになって、嬉しくて、いつもわざと人に見えるように手に持って市場から家まで歩いた。でも、よくもまあ遠いところから、こんな小さなものをBonyaであると判別できるな。
■「泥棒の住むエリア」でMV撮影
今回この曲の歌詞にも出てくるのはMgonaという場所。マラウイの首都リロングウェの中でも「泥棒の住むエリア」として名が通る。簡単に言うとスラム街だ。リロングウェ教員養成大学に赴任当初、同僚からはこう忠告を受けた。「Mgona市場には近づかない方がいい。少し離れていても、値段が少し高くても別の場所で買い物しなさい。あそこは泥棒や犯罪者がたくさんいるから。」
でも、ひとくくりにするのは何か違う。昔からそういうのは嫌い。附属小学校の生徒たちもMgona地域からたくさん通ってきている。泥棒もいるのだろうが、附属小学校の生徒たちも家族も、そこで生活しているのだ。
【↑2018年5月 Mgonaに住む附属小の生徒が家まで案内してくれた】
Mgona市場ではBonyaも買ったし、時期になるとMgonaの鉄道沿いで売り出すMbatataの焼き芋は絶品だったから、通い詰めた。
だから敢えてそこをロケーションの1つとして選んだ。そして、Mgona市場を象徴する落花生殻むき作業場のど真ん中で、100人近くの群衆に囲まれながらのミュージックビデオ撮影に挑んだ。
【↑2018年10月 Mgona市場の落花生作業場での撮影現場】
JICA事務所からは「防犯のため、任地で目立つことはしないほうがよい」と派遣前に説明を受けていた。ビデオ撮影はそれとは真反対の行動で、推奨できるものではないかも知れない。でも、それはあくまで一般論。どう受け止めて臨機応変に危機管理するかは自分次第だ。
Bonya作戦が功を奏したのか、ミュージックビデオ撮影のおかげか、市場に行けば「TANAKA!」とあちこちから名前を呼ばれるようになった。
怪しげな輩に声をかけられている時に、「TANAKA!」と遠くから明るい声が飛んでくると、そんな輩はスーッといなくなる、という経験を何度もした。「TANAKA!」の声が最高の防御となった。
■日常のトラブルをラッキーにかえて
家の水道が止まってかれこれ7ヶ月経つけど、バケツの水運べている分、運動になってラッキー。停電で真っ暗になると、同じ宿舎に住む学生と、月明かりでおしゃべり楽しめてラッキー。
マラウイで起きる日常のトラブルもラッキーと捉えて歌詞にして、マラウイ人学生と一緒にマラウイ愛を歌ったのが、この『Mbatata(さつまいも)』ソングだ。