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人の輪の中で生きる

私は幼少期に「良い思い出がない」と思っていたが、過去を振り返る中で唯一、学校で大きな不安が無かった時期がある。小学1~2年の途中までである。

東京のある小学校に入学した。100年続く古い小学校だった。当時の担任の先生は、特別に聴覚障害者への知識がある訳ではなかった。ただ、私を含めてクラスの全ての子を「排除しない。」という考え方の先生だった。

私については、「イルカちゃん詩集」という表紙で、私が書いた絵や詩をプリントしてクラスで配ってくれた。実は詩は、気に入っていた本を書き写しただけなのだけど自分の存在を認めてくれるだけでなく、クラスのみんなにも自分の好きなことや得意なこと(?)を共有してくれたことは嬉しかった。

私は、調子にのるタイプだったので一度目立たさせてもらったら、クラスでの発言や人前で話すことが自然に好きになっていた。


さかのぼって、小学校入学式の時に教室で緊張して、自分の氏名が書かれた机に座って先生のあいさつを聞いていた時に(はっきりと聞こえていないので様子をうかがっていたのかもですが)、私は突然先生に氏名を呼ばれた。それも2,3回ぐらい繰り返して。

みんなの前であいさつをする機会を設けようとしてくれたと思うのだが、私は昔から聴覚障害だけでなくボーっとしていて考えと行動が伴わないことが多かったので、当時も「先生が呼んでいるのは分かる、反応できず困らせているのは分かる」だけど体が動かなかったのだ。すでに固まってしまっていた。

終わったあと、母親から「どうして・・?」と怖い顔をされたので、私の入学式の写真はベソをかいた顔になっている。


そんなスタートで、色々入学してからもできていないことや聴覚障害に対する情報保障もない状態だったけど、みじめな思い出はあまりない。つねに友達に囲まれていた。家でのスーパーファミコンのゲームやセーラームーンごっこや石拾いとか、楽しかった。先生が学校の教室内だけでなく、家庭や保護者同士の繋がりも大切にしていたので行事もあった気がする。あまり記憶がないけど、友達の家でご飯をみんなで食べたり、漫画を思い思いに読んだりとくつろいでいた記憶がある。

よく悲しいことの思い出の陰に、こういう楽しかった思い出や大切な人との出会いは隠れてしまいがちだ。楽しかったことや成功した経験を語るというより、私にとっては「唯一不安がなかったこと=当たり前の小学校生活がおくれたので楽しかったんですよ。」という気持ちに近い。それは、なんでもないことだけど結構すごいことだったのかもしれない、と今までの経験を振り返るとそう思う。今でもインテグレーション、普通学校に行って良かったかと言われると「悲しい思いをしていたよ。」としか応えられない。大切なのは辛い思い出は整理しつつ、その思い出にとらわれることなく     「自分にとって安心できた場所はどんな時だろう?」と振り返ることは今後の自分に役に立つと思いたい。辛い思い出だけを、ただただ胸にして今を生きるのは辛いだけだと思うので。


そんな先生と、大学の時に再会することになり「私は自分のようになんらかの障害のある子どもを支援したい。」とか理想論を述べてしまったのだけど、そんな私の話を先生はニコニコして聞いてくれて自分の著書を4冊ほど黙ってくれた。メッセージとサインも入れて。

「共感がすべての基礎です。」「素敵な大人になってください。」とのメッセージ。社会人のお祝いにはタイトルの「おめでとう。いろいろと大変なこともあるかも知れませんが、簡単には音を上げず逞しく。そのためには、人の輪の中で生きることです。(原文まま)」とメッセージをくれた。

私は、仕事で辛い時も人生に行き詰まった時もこのことばを思い出していた。今はお仕事を辞めて、支援どころか支援される立場になってしまっているが、支援とかの自分だけ安全な場所にいて子どもと接するのではなく、一緒に考えることができる大人でいたいと思っている。

また、集団ではどうしても馴染めない子が出てくる。目立つ子どもや先生にとって良い子が先生と密になるのは悲しいことだと思う。これは、聴覚障害の世界でも感じたことだ。というか、どこの集団でも起こりうると思う。先生は聴覚障害専門の先生ではなかったけど、誰にとっても居場所のあるクラスにしてくれたのだと思う。

私は小さいころから高校生まで、むしろ大人の世界でも、そういった差が出ているのはしみじみと感じている。だから苦しい時もある。 

それでも、先生のような想いを持っている人との思い出や出会いがあると、頑張れたりする。今回、過去の思い出を振り返って気づくことができて良かった。こういう発見ができると少しずつ楽しいことの積み重ねもできるようになると期待したい。

最後に、教室でみんなの前ではにかんでいる小学校の時の私の写真を入れたいと思ったけど、アルバムが押し入れ奥にあるので、いつか引っ張り出して載せることができればと思う(笑)

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