社会起業家になるまで #人生を変える学び 植山智恵 vol.3
自分軸で生きるという指針と本当に追いかけたいテーマ、そして本質的に課題に向き合う思考力を得た植山智恵さんは、“Project M’INT”を立ち上げて帰国します。これからどんな社会を創っていきたいと思っているのでしょうか。
テクノロジーに世代間を分断させない
識名:以前、植山さんの問題意識は「エイジ・ディスクリミネーション(年齢差別)」だと聞きましたが、今もその意識はありますか?
植山:まさに今の事業で扱っているのがそれです。日本の大企業のメジャリティはミドル・シニア層でボリュームゾーンはバブル入社世代。出世はすごく競争的。そのうえ、大企業の約半分が役職定年を設けていて50歳になったら一気にメインストリームから退く配置を意図的に行うことになります。大企業は特に年齢差別の色が強いと思います。
転職市場でも、20~30代のうちは割とオープンですが、40歳になると一気に案件が減ります。
だから、「ミドル・シニアの人たちが日本のイノベーションをつくる戦力になる」という成功事例をつくらないと年齢差別は払拭できないと考えて、今、そういう仕組みをつくる事業を立ち上げているところです。
識名:人生100年時代の今、50歳で役職定年しても、そこからあと50年働かないといけないのに、そこで排除されるのは恐ろしいことですよね。
植山:その状況をなんとかしたいんです。アメリカシリコンバレーでAIやロボティクスなどテクノロジーの進化を目の当たりにしましたが、違和感を覚えたのが、テクノロジーやイノベーションから遠い人たちを排除して、わかる人たちだけで経済を回していく方向に進んでしまっていることです。
今の日本でも、「“オジサン”“オバサン”は使えない」という風に人をコストとしてみる感じがありませんか。そういう人たちをメインストリームから排除してしまう風潮は危険じゃないかと思いますし、何より「人間としていいの?」と思います。
識名:今は、テクノロジーが世代間の断絶を広げるアルゴリズムになっていますよね。
植山:そうなんです。自分と似た人としかつながらないアルゴリズムになっている。私自身もそうですよ。識名さん含め、実際に友達になる人はかなり限られた層の人だなと。
人類のために正しいと思うことを言い続ける
植山:先日、アメリカの社会起業家向けアクセラレータープログラムの集まりで「社会起業家は本当に孤独だ」というようなことを話していました。多くの人は現状維持を求めるわけだから「変化をつくるミッションを持っている側は孤独だね」と。
ただ、こういうミッションを持ってること自体がギフトだから、人類にとっても正しいと思うことは、言い続けたいと思うんです。もちろん、私の考えが正しいかも分からないし、迷うこともありますが。
でも、事業のユーザーになるような人たちと話してみると、すごく共感してもらえるんです。チャレンジングな問題解決だから全員が共感してくれるわけじゃありませんが、でもやっぱり変な人だと思われても(笑)、正しいことを言い続けようと思っています。
識名:今のは私も勇気をもらいます。変化を起こすのは、抵抗を受けるものだし大変だけれど「それでもやり抜こう!」というエネルギーですよね。
植山:アメリカに居た時は、そういう人たちばかりに会っていたのですが、帰国して日本にいると、その気持ちがしぼみそうで。でも、あらためて「私以外の誰が言うの」って立ち上がり直してます。
識名:大学院などで仲間がいるのはとても大事ですよね。
1人ひとりが「自分のユニークさ」に気づける未来を
識名:では最後の質問。変革の時代において、教育に必要なことは何だと考えていますか?
植山:1人ひとりのポテンシャルを信じること。たとえば私だって、5年前までは自分のユニークさに気づいていない平凡な平社員でしたが、5年間でこうやって変化しました。その変化は誰にも予測できなかったし、自分ですら予測できなかったことです。
高度経済成長期に始まり今まで、組織は人を「効率のための道具」として使ってきて今そこから脱却しようとしています。VUCAの時代においては、個人がその人らしく生きて、自らの意思で創造的に仕事することが可能になりました。企業もそれを応援するように変革していこうとしているけれど、まだ現実は伴わない……でも、兆しはありますよね?そういうときこそ個人がどんどん自己変革して新しいものをつくっていくことが重要だと考えています。
人が変革する可能性は、テクノロジーの進化以上に価値があるのではと思っています。1人の人がどう変化するかにより、システムダイナミクスの流れを変え、周りの人や社会、エコシステムにとてつもないインパクトを発揮できる可能性を秘め、すごくパワフルです。
これから個人がもっと自分の内面に従って面白いことに向かって進んでいった、その先の世界を見てみたいんです。教育はそれを育む場です。人のポテンシャルを伸ばすために、学校や組織のあり方も変えていく必要があると思っています。
識名:すごくいいですね!人の変革を促進するエコシステムのパワフルさは私も感じています。グロービスでは、経営に関する「ヒト」(大学院などでの教育)「カネ」(GCPによる投資など)「チエ」(出版や動画サービスなど)の生態系をつくってきましたが、これらが循環することで社会を変革するインパクトも大きくなると感じています。教員だけでなくスタッフも含め受講生から学ぶことも多いんです。
植山:識名さんは、今後はどうしようと思っているんですか?
識名:今後は、アメリカの教育大学院で教育政策と評価を勉強する予定です。逆境にあってもチャンスを掴める教育システムをつくるために、日本の教育政策のブレーンになりたいんです。そのために、世界中の教育施策、投資とアウトカムの関係について学びたいです。
限られたお金をベストな形に使えるような、エビデンスベースドの政策ができる国にしたいし、そういう教育政策の必要性をロビイングする人になりたいと思っています。
植山:インパクト投資はすごい必要だと思います。今まで教育は「お金にならない」と見られがちだったけれど、ちゃんとエビデンスベースドにして、的確に投資できたらすごくいいですよね。
識名:ありがとう、私も必要性を発信していこうと思っています。
植山:社会課題に向き合う仲間として一緒に頑張りましょう!