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情熱弁当ができるまで⑤仕事の意味を見失う時

超不定期連載「情熱弁当ができるまで」。

前回までのお話し。
>>>【情熱弁当ができるまで】①上京と出戻り
>>>【情熱弁当ができるまで】②店長への道のり
>>>【情熱弁当ができるまで】③新人店長の苦悩
>>>【情熱弁当ができるまで】④そして奇跡は起きた!

愛知万博も開催され、盛り上がる愛知県。

しかし、自分の所属する会社がM&A(吸収合併)され、ある日突然売られてしまいます。晴天の霹靂ってこういう事をいうんだねぇ。

「向こう3年間で、9割の社員が辞めるM&A」

誰が言ったのか知りませんが、後に正解だとわかります。

ある日突然経営陣がごっそり変わるわけですよね。ましてや創業者一族がいきなり抜けるわけで、我々は騙された感たっぷりでした。今まで頑張って店舗数を増やしてきたのは何だったのか。

とはいえ、株式会社ですからね。
株を持っていない人が、あれこれ言っても始まらない。

小さな事業を大きく育て、事業を売って、その利益で新たな事業を始める。企業ベースでは、ごく普通の話です。

会社に残った人たちは、主に二つに別れます。
新経営者に見切りをつけて、他の仕事を探す人。
そのまま残って、旗籠家ブランドを守ろうとする人。

ボクは後者を選びました。
一度は皆で乗った船だしね。

かつての上司だった、会社を売って去っていった社長と副社長(二人は兄弟)は、後に書籍も出されています。

一緒に仕事をさせていただいた頃は、腹の立つ事も多かったけど(笑)たくさんの事を学ばせてもらいました。今となってはありがたいよね。

◆商売は「想い」と「情熱」

創業者一家が、ある日突然いなくなった会社。
売り飛ばされた後、残った社員はどうなると思いますか?

大抵の場合、新会社からいきなりきついことは言われません。

社員の給料は少しだけ上がりました。

アルバイト達は、22時以降の労働で深夜給をちゃんともらえるようになったのです。それまではなかったけど。

労働条件は良くなったはずですが…。
でも、社員やアルバイト達がどんどん去っていったのです。

会社の中にこもっていた、情熱や想いがなくなっていったから。
この事業を始めようと思った理由が、全部なくなるわけです。

飲食物を売るだけの事業体に、成り下がった気がしていました。
特に飲食業などの人商売において、創業者の想いは大切ですよね。

後に情熱弁当を立ち上げたボクも、これは肝に命じていたこと。
言い出しっぺは、事業の最後まで関わるべきだと思うから。

そんな頃。

ボク自身は、新店で立ち上げた郊外店をモンスター店にした実績から、名古屋市中区・栄の繁華街ど真ん中へ引っ張り出されました。

◆都心店の4店舗がボクの担当

エリアマネージャーとして店長たちをまとめつつ、そのうち1店舗の店長を兼任するというハードワーク。この頃、ボクの受け持つ売上は年間約3億円ほど。でも、休みもろくに取れず働き詰めでした。

60連勤を5回くらいやった。だって、辞めるばかりで人が増えない。
とはいえ、管轄の部下である店長たちは、週に一日は必ず休ませました。

自分自身より、ついてきてくれる部下を守る。
これは、情熱弁当の今でも心がけています。

だって、人あっての商売だもの。

創業者が去り、店舗数を拡大させる意味も感じられなくなった。
入社した頃の3店舗から、皆で20店舗まで増やしたけどね。

お客さまを喜ばせるより、とりあえずスタッフの頭数だけ揃えて店を開ける。1店舗に1人いるべきの店長が、兼任で2店舗に1人だけになり、店長不在で社員だけになり、最後はアルバイト達だけで営業させる店も。

給料はアルバイトで、責任とやることは社員並を押し付ける。
彼らの本文は学生だもの。重すぎて拒否されます。

段々と、仕事から作業になっていきました。
準備万端で店を開けていたのが、とりあえず開けちゃえに。

そして、2007年11月。

さらにもう1店舗追加で店長になり、給料もそのままという打診が事業部長から。この頃は、もうがまん大会になっていました。皆から笑顔が消えていた。

「もういいや。や~めた」
ボクは不思議と、あっさり今を手放しました。

ボクが職場を変わる時の判断基準は二つ。

①その職場で学ぶことがなくなった時と、
②給料をくれる人=経営者が尊敬できなくなった時。

それ以上そこにいても、時間がムダなのです。
人生は有限だから。

忙しくなる12月を目の前にした決断。
一応は引き止められたものの、素直に辞めさせてもらえました。

それまでに、誰かが会社を去る時。
ボクはできるだけ送別会をやって笑顔で見送った。

たとえ一緒に呑めなくても、話しをしたり花束を渡して労をねぎらった。

しかし自分が辞める時は、そうしてくれる人が誰もいなかった。
これは本当に寂しかったし、悔しかったな。

自分は会社に誠心誠意尽くしたつもりでも、代わりはいくらでもいる、なんとかなっちゃうという現実を知ります。

そして元年間MVP店長のボクは荷物をまとめ、6年お世話になった会社を静かに去りました。

(⑥へつづく)



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