予算の使途について詰問・・・
4半世紀以上も前の話だが、行政の外郭団体が5000万円ほど(アプリケーションは別)の高額CG専用マシンを導入するという。
筆者は1996年秋、既に、九州初の本格的なCG専用マシンであるSilicon GraphicsのPersonal IrisとIndigoの2基を導入し、本格的な3D CG動画を供給していたのである。因みに、最先端を走る九州大学や熊本大学にも導入されていないレアなる機材であった。
何故、行政の外郭団体が5000万円以上の予算を投じて、CG専用マシンを導入するのか理解に苦しんだが、そこで立ち上げられたのが「熊本県CG研究会」というもので、その説明会に案内されたので、立ち会うことにした。
そこには外郭団体の担当者などが正面に数人並び、聴講席にはマルチメディアやCGなどとは全く関係のない企業から、年配経営者が多く参加している。妙に、不思議な空気感であったことを思い出す。
冒頭から、担当者が自慢げに、CG専用マシンであるSilicon GraphicsのCrimsonの解説を行い、高額マシンを無償で民間に貸し出すというものである。門外漢の経営者たちは虎視眈々として、この上ない好機に便乗しようと構えていた。
筆者が自社に高額マシンを導入し、NHK衛星放送や関西テレビやフジネットワークのローカルテレビ局など、多くのテレビ番組のタイトルCGやCGコマーシャル供給を行っていた頃の話である。
担当者の自慢げな話が終了し、そこで質問タイムに移行することに。
そこで、間、髪を入れず質問することにした。会場は筆者の質問にどよめいたようで、取材に来ていたテレビ局のビデオカメラは回っている。しかし、後日のテレビの報道内容は肝となる質疑応答は全く割愛された。
以下の質問内容でご理解いただけると思うが、無計画な行政サイドの予算の使徒については、導入決定の前に専門家委員会を設けて、しっかりと検討した上で決定し、動くべきである。
よって、今でも当時の怪しい空気感を忘れることはない。
▼筆者の質問内容
1)そもそも、このSilicon Graphicsマシンの導入の目的は何なのか?
2)30社ほどが「熊本県CG研究会」に参加して、Crimsonを無償で利用できると言うが、1ヶ月で1社あたり1日を借りることになるのか?
3)3D CG専用マシンは何時から何時まで使えるのか?
4)行政外郭団体が提供する3D CGマシンのハードおよびCG専用アプリを利用することになるが、それを使って制作された動画の著作権はどこに帰属するのか?
5)また、3)と同じ環境下で利用する場合、制作された動画はビジネスライクに販売が可能なのか?
6)1ヶ月で1社が利用できるのが1日、年間12日であるが、本格的な3D CG動画制作がその日数で制作可能と考えているのか?
7)マシンのスイッチを入れるのが、月曜から金曜日、毎日午前9時から午後5時と回答があったが、アフターファイブでのレンダリング作業などを想定していないのか?
8)3D CGマシンのスイッチを毎日ONやOFFをしていると、ハードディスクの疲弊が懸念されるが、それも想定内のことか?
※当時、カートリッジ式のハードディスクは1枚150万円であった。
上の筆者の質問内容について、正面に着座している担当者やその他上司らがざわめいた。そして、絶句の状態である。理由は、質問内容が想定外のものばかりであったようだ。
例えば、4)と5)については、無回答であった。よって、民間が利用するのは可能だが、制作された3D CG動画は著作権もクリアできず、販売もできないことになる。
また、6)と7)、8)についても想定外であったようで、担当者は回答できず、後日回答すると語り、質問タイムは終了したのである。
以上、読者の方が読まれれば、「高額3D CG専用マシンの導入について、シミュレーション」を行っていない行政の姿が見え隠れしたと思うが、これこそ、「税金の無駄遣い」なのである。
最終的に、筆者はこの説明会を最後に、それ以降参加することはなかった。行政は予算が余れば、このように思いつきにて予算をばら撒くこともあり、それに乗っかる性根逞しい商人(あきんど)たちがいることに閉口するばかりであった。
周囲から嫌われるかも知れないが、「税金の無駄遣い」を黙認する訳には行かず、行政外郭団体担当者の勉強不足にもまた、愕然とするばかりであった。