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儚くも消えた心友との絆

 新聞社を経て起業して5年目のことである。心友が米国に渡り18年ぶりに帰国を決意したという。

 高校時代、留学については、法曹界にいた父が留学を強く反対したため、結局彼一人だけが米国留学を果たし、数校の大学で学位を取得し、某大学の研究員として米国で踏ん張っていた

 当時は現在のようなインターネット環境が整っておらず、彼と筆者のコミュニケーションは国際電話かエアメールに限られていた。そのため、筆者の自宅固定電話から国際電話をかけることに、父から厳しく注意を受けた。

 ある時、彼は鬱状態になってしまった。原因は、当時付き合っていた米国人女性弁護士との別れ話である。これが原因で精神的に凹み、最終的に帰国を選んだようだ。

 それまで、電話で何度も励ましたものの、彼女との絶縁がよほど辛かったに違いない。しかし、彼の専攻は国内での職業先が見つからない。熊本市内では尚更のことである。

 そこで、起業して4年目に、一度、彼が一時帰国する際に、米国IBM系列起業に勤務する米国人男性の友人を連れてきた。1994年11月だったか、熊本にて商用インターネット事業の是非について寝食忘れて話し合った。

 その結果、筆者は会社でインターネット事業を本格的に着手することを決断し、翌年の1995年春に彼も帰国し、弊社の重役として迎え入れることになった。

 筆者にとっては、心友と言える同級生は三人いる。一人は東京の大手商社に入社し、もう一人は某行政の上級職で社会人となった。そして、米国帰りの彼とスクラムを組み、拠点を東京渋谷に移し、インターネット事業準備に傾注したのである。

 しかし、想定外の事件が起きた。彼が営業車を運転中に自損事故を起こしたのだ。米国での運転経験が長かったため、日本の道路事情に慣れていなかったのだろう。

 更に、重大問題が起きた。彼の体調が急変し、仕事をまともにできなくなった。ワインを毎日のように嗜んでいたが、何十年もの長きに亘り呑み続けていると、体調に異変が生じるのは当然のことである。

 結果的に、筆者と彼は、新たなプロジェクトで最高のコンビであると考えていたものの、突然の彼の離脱はとても苦しく、悲しいものであった。

 帰国して弊社事業に参画し、熊本初のインターネット事業を展開し、東京渋谷進出を目論んでいた矢先であったので、その衝撃は筆舌に尽くし難い。今でも、当時、最善の解決策はなかったものかと猛省するばかりである。

 久しぶりに会えば、二人とも音楽が好きで、筆者もギターを嗜んでいたので、サイモン&ガーファンクルの曲を歌えば、一発でハモり、楽しい時間を共に過ごしていたが、突然の離脱から全く疎遠になってしまった。

 それまで国際電話で盛り上がり、彼が米国人の友人まで引っ張ってきたにも関わらず、この有様である。何とも言えない虚脱感に愕然とする毎日が続くことになる。

 蛇足ながら、彼の離脱から数年後に、他の同級生の一人が彼の愚痴を筆者に伝えてきたのである。心友として信頼していた人物の言葉ではないと、心の中では否定したが、心友であった人物が筆者の個人情報を漏らしたのである。たわいもないことだが、二人の約束を破ったことに違いない。

 勿論、彼の離脱から現在まで、彼を恨んだりしたことは一切ない。ただ、心身の健康については自己責任であり、その点は彼に反省を促したかったが、その本音さえも語り合えず、音信不通となったままである。

 このエッセイを彼が読むことは無かろうと思うが、当時の志は今も筆者の心の中でメラメラと燃え続けている。好機を逸したのは、二人の責任である。二人のベクトルに僅かながらもズレがあっただけの話だ。

 若くして他界した筆者の母のカレーライスが大好きだった彼だったが、現在は体調を壊して病と戦っている。インターネット事業に着手してから29年余りが経過した。今は、彼の病が完治するように祈るばかりである。

 しかし、他の同級生の一言は要らぬ世話であった。筆者は転勤族の家庭に育ち、その当時、他の同級生とはある程度距離を置いていた。よって、人の噂を悪く言うような世界観には染まりたくはなかったのである。

 複雑に絡んだ人間関係の捻れを戻すのは容易なものではない。よって、過去の様々な出来事は、これにて一切忘れ去ることにしたい。

 以上、「儚くも消えた心友との絆」は、筆者にとっては、理想と現実のギャップを叩き付けられたようなものだが、冷静に考えれば、彼の失恋も、彼が帰国したのも、事業の好機を逸したのも、心友との絶縁も、全て必然である。

 この世の中で、ヒューマンコミュニケーションほど難しいものはないが、とても良い人生勉強になった一コマとして、心に受け止めている次第。


▼ChatGPT-4oによる感想

「儚くも消えた心友との絆」は、失われた友情と仕事上の挑戦を交えた感動的な物語です。筆者のエッセイは、長い間連絡を取っていなかった心友との再会と、それに続く仕事の共同体験を生々しく描いています。この物語は、深い人間関係の複雑さと、時間とともに変化する絆の性質を掘り下げます。

筆者と心友の間の信頼と友情が、遠隔地での生活や個人的な問題によって試される様子が鮮明に語られています。特に、心友がうつ状態になり、最終的には帰国を選ぶ過程は、心理的な葛藤と個人の脆弱性に光を当てています。心友がアメリカでの生活から切り替えを余儀なくされた状況と、それによって生じる仕事上の影響は、ビジネスと個人生活がどのように密接に結びついているかを示しています。

また、エッセイは、事故や健康問題といった予期せぬ出来事が、プロジェクトや個人の計画にどのような影響を及ぼすかを描いています。筆者が友人の健康を心配し、ビジネスでの彼の重要性を再認識する過程は、仕事と人間関係の間の緊張関係を浮き彫りにします。

さらに、他の同級生との関係や、社会的な側面が物語に深みを加えています。筆者が心友の個人情報を漏らした疑惑に対して感じる裏切り感や、その後の孤立は、信頼と誤解のテーマを掘り下げることで、人間関係の複雑さを際立たせています。

このエッセイは、失われた時間を取り戻すことの難しさと、過去を乗り越えて前に進む決意を示しています。筆者が過去の出来事を忘れ去りたいと願う心情は、人生の一章としての終わりと新たな始まりを象徴しています。全体として、このエッセイは人間関係の脆さと強さを巧みに描き出し、読者に深い共感を呼び起こします。

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西田親生@D&L
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