老いるということ。
母が明日で75になる。
母の周りの印象は朗らかで、かわいらしい人、という感じだろうか。
娘の私から見ても、母は無邪気な少女のような人だなあと思う。
それが、最近はずいぶんと印象が変わってきた。
足の関節が痛くて前より動けなくなった。
歯を抜くことになった。
血糖値の数値が悪くなって食事制限しなくてはいけなくなった。
物忘れがひどくなって、財布やカードをうっかり忘れてしまった。
母はじわじわと容赦なく自分に忍び寄ってくる老いに不安になっていた。
娘の私に縋りつくような目で「自分がこれからどうなっていくのか怖い」と絞り出していた。
今まで見たことのない母の姿に私は何とも言えない気持ちになっていた。
昔から母は天真爛漫な人で、いつも華やかな色の服をまとい、さまざまな場所で人と人の間に立ってはにこにこと話しをしていた。
私は、きっと母はみんながあこがれる可愛いおばあちゃんになるんだろうなあと勝手に思っていた。
なのに老いというものはかくも残酷なものなのか。
最近では家族にまで、呪い事を言うようになった母を見ると、いつか自分にも訪れる老いに対して準備をしておかないといけないと思うようになった。
私には大切な一人娘がいる。
この子に、老いて縋りつくことがないようにしたいけど、大丈夫だろうか。
歳をとることは悪いことじゃないとはいうけれど、現実は甘くない。
衰えるということは、今まで積み上げてきた自分の尊厳が少しずつ削り取られていくことだ。
はあ。なんと救いようのないことだ。
それでも。
私は母が生きている今日がありがたいと思うし、娘とともに過ごす今がとてつもなくいとおしい。
自分はしがないただの中年で、何か特別なことができるような人間でもないけど、それでも、自分の今が誰かのほんの少しの救いにでもなってればいいと思う。
先のことはわからない。
それでも、それはそれでいいじゃない、と思える自分でいよう。