日曜日の午後
おうちにいないで外へ出ようよと子どもたちに声をかけて自転車に乗った。
自宅から5分もいけば畑がひろがり森が点在する。武蔵野丘陵地帯はどこまでも続く深い森というのはなくて、小さな森や林がぽつんぽつんと畑や民家の隙間に点在するのが特徴である。木々の多くは楢の類で、秋になると大小様々形色々などんぐりが大量に落ちてくる。
バッタやトンボが飛び交っていた季節はもうすぐ終わろうとしていて、あれほどいたのにどこへやらと思うほど数が少なくなっていた。ようやく見つけたオオカマキリのメスは羽がぼろぼろで、その一生をいよいよ終えようとしている。カマキリは二匹見つけたが、どちらも満身創痍といった風で手で持ってもほとんど反撃してこなかった。ぼくたちはカマキリを見つけたその場所にまた戻して農道を歩いた。
草むらに目を凝らしているとイトトンボが何匹か飛んでいる。いったいどこから来たのだろうか。ヤゴが生息できそうな水辺が思いつかない。どこへ卵を生むつもりだろうか。イトトンボは細い枝に止まると枝と一体化した。昆虫ほど気配を消せる生き物はほかにいないだろう。
シティガールの妹は退屈を口にして、もっていた網を振り回してそれがあたったのあたってないので兄弟喧嘩が始まる。そして畑中に泣き声が響き渡る。いったいあと何年したらこういうことがなくなるのだろう。ぼくは美しい光にゆれる草木を眺め、静かになるのをじっと待つ。
風が冷たいせいか風が強いせいか昆虫は少なめで、ちょっと時期を逃したななどと息子がつぶやく。農家の門柱でサナギになったアゲハを見に行ったら見事に石色に擬態していた。しかし雪が降ったら一発で埋まるだろう。サナギは雪の中でも生きていけるのかな。凍っても死なないのかな。
出発した時間が遅かったので、のんびりしていると日が暮れてしまう。森の高い樹木が太陽を遮るととたんにあたりが暗くなる。さあもう帰ろうとぼくは言った。すると今まで帰りたがっていた娘でさえまだ遊び足りないなどと言い出す。ぼくはあれやこれやと理由をつけて自転車を止めている出発地まで戻った。森の要壁を抜けると太陽が金色の光を地面に降り注いでいて、今日は暑かったと言って子どもたちはローソンでアイスを食べた。日曜日の午後。
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