WHERE THE ANGER GOES
最近、腹が立ちすぎることがある。
小学二年生の息子の言動や態度が頭にくるのである。七歳にもなると、上っ面の言葉の蓄積に中身が追いつかないからその言葉の先に起こりうることを想像しないまま発してしまう。具体的にいえば、ぼくに向かってテメエと言った。そして大人をおちょくった態度をヘラヘラと取り続ける。こちらの制止も馬耳東風だ。暴言と挑発する態度にぼくのはらわたは煮えくり返りボコボコに殴り倒してやりたい気持ちになる。いや、心の中では殴っている。今この場で言っても無駄だから、つまりなんどもやめさないと言っても通じないからぼくは無視をする。するとさらに調子にのって後ろから力いっぱい殴ってくる。彼はぼくに対して怒っているからぼくを挑発せずにはいられないようだ。なぜぼくに対して怒っているかと言えば、妹へのえこひいきを感じたとか、お菓子を取り上げられたとか、彼にとって怒るに十分な理由があるのかもしれないが、だからといって、そのすべてを許容できるほどぼくは聖人ではない。やめろと言えば言うほどエスカレートしていくから、ぼくは頭にきて仕方がない。本当に殴っちゃうかもしれない衝動を必死に妄想に変えている。
とにかく無視を決め込んで、一旦そのことが落ち着いてからちょっとこっちへ来なさいとぼくは息子に言った。ここで殊勝にも素直にやってくれば話が早いのであるが、またヘラヘラと頭にくる笑いを浮かべて来ようとしない。ならばぼくが行こうとすれば声をあげて笑いながら逃げる。逃げるなら本当に一生捕まらないように逃げろよと思う。かんたんに捕まるような逃げ方するなよと思う。ここで追いかけたら捕まえた拍子に顔面パンチ炸裂してしまいそうなのでぼくはソファに座ったまま動かない。
じれったい気持ちを抑えながら息子が話を聞く気になるまで待つ。世の中完全なんてないから、ヘラヘラがヘラになったくらいで言ってはいけない言葉ややってはいけない行動について諭す。言葉もそうだがとくに大人を小馬鹿にするような態度は絶対にとってはいけないとぼくは繰り返した。だがしかしぼくは忘れてはいない。つい2,3日前も同じ話題をしたばかりである。ガクッ。
なんでこんなに腹が立って仕方がないのだろうと考えてみれば、結局のところどんなに頭に来たってぼくは息子を見捨てられないからである。これが他人ならしーらねで終わりにできるのだ。関係ないもんねといって未来永劫会わずに済ませることができるのだ。しかし息子は違う。嫌だからやめちゃえばいいは子育てには通用しない。実際不思議なことに、どんなに頭にきても終わりにしたいとは思わないものである。ただちょっと離れていたいなとは思う。
衝動とは恐ろしいもので、相手の気持ちの昂ぶりや声の大きさや言葉や態度にのせられてしまうと、こちらも同じように振る舞ってしまうところがある。ぼくが時々自分が怖いなと思うのは相手のペースにのせられて自分の鼓動を感じたときである。よくよく冷静な視点を持っていないと、いともかんたんに相手のペースにのってしまうから衝動というヤツには十分に気をつけないといけないなと思っている。幼児の頃には考えてもみなかったことが少年期に起こる。子育ては決して楽をさせてくれない。
最近立て続けに息子が原因となる怒りを感じてしまったから、こんなふうにして文字にして自分の気を沈ませているのである。感情をストレートに出す子だから、喜怒哀楽の表現が激しい。長所と短所は表裏一体だから、扱いがとても難しいものである。つまりひたすら叱り飛ばしたあげく感情を殺す子どもになってほしくはないのだなどと考える始末である。しかしあのひとをイラつかせる態度はやめさせねばならぬ。そういうわけで、ぼくはまた息子のことで悩むのである。なんといったって、ぼくのかわいい息子なのだから。
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