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読みつがれる名著「せむしの子馬」

ぼくがものごころがついた頃すでにせむしの子馬は家にあった。
繰り返し繰り返し読んで、一生忘れることのない一冊である。
 
せむしの子馬はロシアの作家ピョートル・パーヴロヴィッチ・イェルショフの作品である。あとがきによれば、著作はこれ一冊で、19歳のときに書いたものであるらしい。
せむしの子馬はロシアに伝わるお話「火の鳥」をベースにして様々な民話寓話をおりまぜてひとつの作品にしたような本ということだ。
 


正直もので気持ちのやさしいイワンという少年はある日畑を荒らす天からやってきた馬を捕らえることに成功する。その馬は自分を逃がしてくれることを条件に二頭の素晴らしい馬とロバの耳のような長い耳を持ち、フタコブラクダのようなコブのある子馬(ポニー)をイワンに与えるのである。
 


二頭の馬は好きに売り渡して構わないが、せむしの子馬だけはそばに置いておくようにとイワンに忠告をしてその馬は天へと帰っていく。二頭の馬を王様に売ったことから城の厩係に任命されたイワンは王様の無理難題に応えるはめになる。火の鳥を捕まえてこいだとか、海のお姫様をさらってこいだとか…。その都度子馬が手助けをして最後はイワンが王様になるというお話。子馬とイワンはドラえもんとのび太の関係と言える。
 


ぼくはこのファンタジックな物語を気に入ったのはもちろんイラストが美しくて好きだった。イラスト一枚から物語が動き出しそうではないか。とくに美しいお姫様とクジラの背中にできた町の様子が子どもながらにお気に入りだった。

 
子どもに読ませてやりたい本はたくさんあるが、せむしの子馬は間違いなくそのうちの一冊である。ぼくは自分で読んだが、今娘が読んで読んでとせがんでいる。一度に全部読むには長いので少しずつ区切りのよいところまで読んであげている。
 


我が家にあるせむしの子馬はぼくが子どもの頃でさえすでに古い本であったが、それからさらに四十年が経過しボロボロになった。ページをめくるたびに紙の端がぽろぽろと落ちる。どんなに丁寧にめくっても崩壊は免れない。だけど、月並みな言い方になるが本の中身は古びるところなんか全然ない。令和の時代でもこうして子どものこころを掴んで離さない。
 


昭和二十五年発行である。この後版を重ねたのか知らないがいわゆる初版本だった。昭和二十五年と言えば1950年である。2024年の現在からなんと74年前。ぼくの父が子どもの頃に手にした本で、三代に渡って読み継がれてきたのである。発行元は大日本雄弁会講談社。そう現在の講談社である。講談社は面白くてためになるをキャッチコピーにこうした海外の児童文学を積極的に出版していた。このせむしの子馬も世界名作童話全集の三巻とある。
 


さて、このせむしの子馬あと三十年生き延びたら百歳である。四代に渡って読まれるかどうか。さすがに本の劣化が激しくて厳しそうではあるが果たして。

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