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ブラインドタッチなんて生ぬるい! 入力画面すら見ないアナリストの世界(現役スポーツアナリストによるアナリストQ&A②)

前回の続きです。

Q4.アナリストって具体的に何をするの?


前回の記事で、アナリストはあらゆる情報を駆使して、チームあるいは選手と共に目標達成をする役割だということを話しました。

じゃあ、価値のある情報を提供するために具体的に何をしているのか、という話ですが、これはチーム・アナリストごとに異なります。よって、大体自分はこんな感じのことをしているよ、という話をします。まずはイメージがしやすい試合中の話から。

試合中

試合中やること① ビデオの撮影

図1 大会会場にはいくつものカメラの三脚が

まずは試合をビデオで録画します。映像はアナリストにとって最も重要な一次情報です。筆者は大会期間中、基本的に全ての試合を撮影します。これを基に、データをとったり、対戦相手の対策ビデオや、自チームの選手のプレー集等を作ったりします。「これがないと何も始まらない」と言われるぐらい本当に重要なものなので、どのアングルから撮るか等、撮影の仕方などにも細心の注意を払います。

逆に言えば、映像さえあれば、その場にいなくともわりと何とかなります。リアルタイムでベンチをサポートするのでないなら、映像を観ながら後から分析すれば良い訳です。

試合中やること② 分析ソフトの入力

やはりアナリストと言えば、これを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。バレーボールには専用の分析ソフトがあるので、それにコードをバチバチと打っていきます

図2 自チーム以外の試合も入力します

まず、コート上で起こったことを数字とアルファベットに置き換えて入力していきます。
例えば、「7番の選手がサーブを打った」のなら、サーブには「S」というアルファベットが割り振られているので、「7S」と入力する訳です。

で、これはあくまでも最も簡単な形で、更に詳しい情報を加えていきます。もしサーブがジャンプフローターならSの後にMを、ジャンピングサーブならQを入力します。加えて、コートエンド右側から打ったのなら数字の1を、中央から打ったのなら6を、左側から打ったのなら5を入力します。

…と言った具合に、各プレーを誰が、どこで行い、どんなシチュエーションだったのか、そのプレーの質はどうだったか、等を目まぐるしくボールが行き来するコートをよく見ながら入力していきます。ちなみにどこにボールが落ちたかなどは、コートを36分割して入力します。

36分割したコート番号(コートを1~9に分割した後に、更にA~Dの4分割)

最終的なコードはこんな感じになります。


自チームの7番の選手がコート右端からコート番号5Bに向かってジャンプサーブを打ち、相手の3枚レセプションのうち左側の2番の選手がレセプションを行った。その選手はオーバーハンドでレセプションを行い、完璧にセッターに返球した。セッターは自らの定位置からAクイックを囮にして、5番の選手のレフトのファーストテンポ攻撃を選択した。自チームは1枚ブロックになってしまいコート番号5Aに打たれたが、19番の選手がディグを行い、返しの攻撃で自チームは1番のレフトオープンを選択し、三枚ブロックのストレート側に跳んでいた4番の選手に当ててワンタッチを取り、得点した。

アナリストが入力するコード
7SQ15B.2#,O3 K1 a5PV-5A,1.19D KK 1P1.4=,3S 

いかがでしょうか。
上の長ったらしい説明のシチュエーションも、実際のプレーだと多分9秒ぐらいで終わるはずです。
その間にアナリストは、上記のような大体40文字ぐらいのコードを打っていることになります。

最初は頭の中での変換が全然追い付かないので慣れが必要なのと、何より今でもきついなあと思うのは

”入力中は手元どころか画面すらまともに見る暇がない”

ということです。タイトルにも書いた通り、コート上を常に見ている必要があるため、入力している画面を確認する時間は基本的にありません。ブラインドタッチはブラインドと言っても画面は見れるので、さしずめノールックタッチとも言うべきでしょうか。

図3 分析ソフトの入力画面

プレー中でも目を離せる瞬間はなくはないのですが、ネットタッチやツーアタック等、不測のプレーがあると見逃がしやすくなるので基本はコートをガン見します。

筆者はアナリストを志してからブラインドタッチの練習を始めましたが、試合中に入力してみて初めて「あれ? ブラインドタッチよりクソ難しくね?」と気付いた次第です(遅い)。

とは言え、入力したこのコードを元にしてデータを出したり分析を行ったりするので、ブラインドタッチもといノールックタッチはバレーボールのアナリストには避けては通れない道でしょう。

試合中やることその③ ベンチとのリアルタイムでのデータの共有

上記のように分析ソフトに入力した内容をもとにしてデータが算出されるので、それをベンチと共有します。どんなデータを共有するかは、チーム毎に異なります。ローテーションごとの成績など、感覚的には把握しにくい部分もコードがしっかり打たれていれば数値化することができます。

図4 分析ソフト スプレッドシート

事前に、スプレッドシートに試合中に欲しいデータが表示されるよう数式を入力しておきます。図4は各ローテーションのサイドアウト率と得点の内訳を表示するシートです(データはダミーです)。

これをベンチのiPadなどに表示しながら必要に応じてインカムで会話をして、オーダーやフォーメーションの変更や選手交代などの試合を左右する意思決定のサポートをします。

この辺りのことは筆者は今まで導入しきれずにいたのですが、やっと準備が整いつつあるため、次回のリーグ戦から導入予定です。ワクワク。

試合後&次の試合に向けて

試合後は、どうしても試合中のコード入力には漏れがでるので、データを修正したり、ミーティングを行うチームはその資料を作ったりします。他にも選手ごとにプレービデオを作ったり、次戦の対策ビデオを作ったり…。

筆者は社会人かつ県外のチームに帯同しているため、なかなかこの辺りのサポートがやりきれないのが課題です。

ちなみにちゃんとやると睡眠時間が消えます。土日の試合の振り返りと、次週の試合の対策の資料を同時に準備して火曜とかにミーティングするんだから寝れる訳がない。世の中のアナリストに幸あれ

Q5.アナリストはどんな分析ソフトを使っているの?


バレーボールの分析ソフトは2種類あります。イタリアのDataProject社が開発した DataVolley(データバレー)と、ポーランドのVolleyStation社が開発したVolleyStation(バレーステーション)です。

↓公式サイト、プロモーションなど


いずれも年単位の契約となっており、どちらの分析ソフトもおよそ10~15万円/年の費用が必要になります。
(ただしデータバレーには機能が縮小された廉価版が存在し、そちらは年間5万円程度です)

Datavolleyは2003年に日本語版がリリースされ、国内外問わず「バレーボールのアナリストと言ったらDataVolley」といっても差し支えないほどのシェアを独占していました。

もう一方のVolleyStationは比較的最近台頭してきた分析ソフトで、ここ1、2年で急激にシェアを拡大しつつあります。Vリーグに所属するチームもどんどんVolleyStationを使用するチームが増えているようです。

コードの入力方法はどちらもほぼ変わりませんが、ユーザーインターフェースの面や分析の面で違いがあります。筆者は一応どちらの分析ソフトも使用経験があるので、使用感のレビュー等も今後記事にする予定です。

Q6.どうやったらアナリストになれるの?


現状、アナリストになる為の試験や免許がある訳ではないので、どこかのチームに所属して、アナリストという役職に就いたら、とりあえずはアナリストになったということになります。

分析ソフトも、絶対に必要かと言われるとそうでもない(紙とペンだけでも分析できることは沢山ある)ので、分析ソフトが使えない(使わない)とアナリストと呼べないかと言われると、難しいところです。

バレーボールに限って言えば、年末にバレーボール協会が主催するアナリスト育成セミナーというイベントが毎年開催されます。コロナ禍以前はいわゆるNTC(味の素ナショナルトレーニングセンター、様々なスポーツの代表選手やチームが練習を行う施設)で開催されており、会場に入るだけでもモチベーションがブチ上がります。

図6 もう一度行きたいNTC

2日間のセミナーはいくつかの試験と講義で構成されており、バレーボールの基礎知識に関する授業や、現役の日本代表アナリストの方々の話が聞けたり、分析ソフトの入力テスト等アナリストとしての腕試しもできたり、非常に実践的な場となっています。アナリストを志す、またはアナリストとして活動している人間が全国から集まってくるので横のつながりを作ることができるのも大きなポイントです。

ちなみに、自分は過去に2度参加しました(対面1回、オンライン1回)が、オンラインは自宅から気軽に参加できる利便性がある反面、交流の機会がほとんどないことが非常に残念でした。対面で参加できた時は普段知り合えない関東のアナリストの方と話すことができ(後にその方からめちゃくちゃ助けられることになる)、今振り返っても本当に貴重な場だったなと心から思います。

アナリストに興味がある方は、まずはアナリストセミナーに参加することを強く、強くお勧めします。

次回予告

次回はまあまあディープな話をしたいと思います。次回でQ&Aはおしまいです(多分)。

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