第21回 これからの米作りと農村を担うのは誰だー山口県の集落営農を参考にー
日時:令和4年6月21日(火)12:15~13:15
場所:神戸大学農学研究科 地域連携センター
ゲスト
農学研究科食料環境経済学講座 助教
小川景司先生
土地利用型農業、つまり日本の水田農業は国土保全や環境保全、
農村の経済や地域社会を維持するという重要な役割も担う産業です。
しかしながら土地利用型農業は相対的に収益性が低いのも事実です。
今回のゲストである小川先生は、
この「土地利用型農業」の持続可能性をキーワードに、
どうすれば持続可能な在り方を実現できるのか、
どのように価値を評価すればよいのか、等のテーマで研究をされています。
今回は持続可能性を考える上での具体例として、
「集落営農」にフォーカスしてお話しいただきました。
日本の水田農業の現状と課題
日本での主食用米の需要は減少、販売価格の低下という傾向にあり、
この傾向は今後も続いていくと考えられるとのこと。
また、水田の面積は減少、一方で経営規模は拡大しているそうです。
土地利用型農業は厳しい状況に立たされている、というわけですね。
集落営農とは
集落営農とは「地縁をベースとした共同経営」、
集落で農業を共同化することにより農業経営を効率化すること。
機械の共同購入や作業の共同化など、何をどこまで共同で行うかはそれぞれの組織によって異なりますが、いずれも集落営農というそうです。
集落営農の展開
そもそも集落営農は、国と農村、両者の問題意識(下記)が合致して、
全国で急速に広がったそうです。
国:安定的・効率的な水田経営体の育成を目指し、推進・支援
農村:衰退する地域農業の維持を目指す、集落の相互扶助意識、危機意識
集落営農に求められる役割
なぜ国は集落営農を進めてきたのか、
それは日本の水田農業はほとんどが兼業農家であり、
このままでは維持が困難であったから。
兼業農家だけの地域であっても、地域農業を維持する担い手として
集落営農(効率的かつ安定的な経営)が必要だったそうです。
日本の水田農業は厳しい状況下においても、
集落営農が担い手となることで維持されてきたということですね。
一方で・・・
小川先生が県の職員や集落営農の代表者から聞かれる言葉は、
「このままでは組織を維持できない」
「10年先には、今のような形で存続できない」
一体なぜなのでしょうか。
集落営農を存続していくためには、
経済、環境、社会の3側面の条件が必要と小川先生は整理されています。
しかしながら、
以下のような外部環境の変化により上記の条件が危ぶまれているそうです。
・主食用米の需要減、価格低下
・集落の人口減少、地域の共同活動停滞
・定年延長により、定年後就農者の大幅減少
・若い世代の農地・農村に対する意識低下
また、集落営農特有のマネジメントの問題、政策的支援のもとで設立された組織は「自立(支援に頼らない)」が課題となることも多いそうです。
これからの農村・米づくり
後半は小川先生に
山口県での調査結果から集落営農の最新実態を見て、
どのような農村・米づくりを目指して行けば良いかの考察を
お話いただきました。
集落営農法人の課題
山口県の227法人から回答を得たアンケートの結果とその考察を紹介いただきました。
そのうち一部をざっくりと紹介します。
・多くの経営体が抱える課題は労働力の確保であり、また10年後の経営意向については、現状維持の経営体が過半数。
・縮小意向のある経営体は規模が小さかったり収益性が低い場合があり、それらの改善支援、そして人材確保が求められるのでは。
・次世代の意見や合意があることが拡大方針をとる上で重要とみられ、将来のために若手の意見が反映される組織を目指すべき。
アンケートだけではなく現地調査も行われ、4つの法人について性質と今後の経営意向について具体的に紹介いただきました。
その結果、経営の縮小を考えている組織と拡大を考えている組織について分析したところ、その意向の違いは組織運営の差異が要因として考えられるとのことでした。
まとめ
現状と実態を踏まえ、小川先生から以下の結論が示されました。
小川先生からの講義は以上でした。
大変勉強になる内容でしたので、講義いただいた内容の過半を紹介してしまいました・・・。
講義後、参加された一般の方、教職員や学生からも質問がありました。
例えば、集落の運営にも取り組んでいる組織実例の話、スマート農業による効率化との関係、兵庫県と山口県を比較した場合の分析や若者にとっての魅力など、様々な質問が上がり時間が足りなくなるほどでした。
今回の小川先生の講義では集落営農についての基礎を学びつつ、
米作りをもとに地域が抱える課題を考えるという大変充実したA-Launchとなりました。
A-Launchに止まらず、これからも一緒に日本の農業のあり方を考えていきたいと思います。
農学研究科地域連携センター
梅村 崇