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オペラ:ミュンヘン、ゲルトナープラッツテアターのプレミエ、ギルバートとサリヴァン《ペンザンスの海賊》(11月29日)

11月29日、ミュンヘンのゲルトナープラッツテアターの新制作《ペンザンスの海賊》プレミエ公演を観ました。

12月1日はアドヴェントの第一日曜日です。
劇場前には大きなクリスマス・ツリーが立てられていました。全景です。

劇場正面入り口の左側、階段を登ったところでは、海賊二人が迎えてくれました。
二人の背景の左上に「ARM ABER SEXY」(ビンボーだけどセクシー)とありますが、これはベルリン元市長ヴォーヴェライトの言葉です。

ヴォーヴェライトについては、以下をどうぞ。

ベルリン市が大幅な文化予算削減を決定し、文化関係は非常に困難な状態に陥っています。
ヴォーヴェライトが市長だった時は、お金がなくても文化に理解があったのですが・・・
ですから、ここでもヴォーヴェライトの言葉を出して、ベルリン市への抗議を表明しているのですね。


プログラム。

さて、この作品を知っている人は多くないでしょう。

まずペンザンス。英国コーンウォールの最南西部の港町です。
これはプログラムの中の説明です。

コーンウォールというと、ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》のマルケ王がいるところです。温暖な気候で知られています。

ここに海賊が現れるわけですが・・・。
ストーリーはネットでも簡単に調べることができるのでここでは割愛します。


『音楽の友』誌に書く予定なので、ここではあまり書けないのですが・・・。

この作品の世界初演はニューヨークです。
19世紀、アメリカは『アメリカ・ファースト』で外国人の権利を無視していました。
作品のテキストなどを改変して上演、「違う作品」と主張したこともありました。
このため、英国のギルバートとサリヴァンはさまざまな知恵を絞っています。

いろいろあるのですが、今回の新制作は、まず、クリスマス・シーズンに家族みんなで楽しめる出来になっています。

でもやはり英国の歴史、演出の背景などを知ると、楽しいだけに留まりません。
少し紹介すると・・・。

ちなみに演出のアダム・クーパーと指揮のアンソニー・ブラマルは英国人です。

ブラマルは座談会で「英国人のユーモアは、馬鹿げた状況をまったく普通として扱うことにある。ドイツ人のように『これって可笑しいでしょ』と示すと、それはユーモアではない」そして、この作品は「社会風刺に満ちている」と言っています。

この作品は『ヴェリ・ブリティッシュ』なのです。

ブラマルは、さらに、たとえば養父制度(ここではスタンレー少佐とその娘たちの関係)を説明しています。
当時、英国では金持ちの子供が孤児になった場合、国王が法的責任を持ち、養父を認めたそうです。つまり、これにより養父は財産を増やすこともできたわけです。これもすごい!
(下の写真でわかりますが、少佐の娘たちはロイヤルブルーを思わせるブルーのドレスを着ています。全員違うデザインで、手も込み、美しい。金持ちしかこんなドレスを着ることはできないわけです。)

こうみていくと、海賊たちが「自分は実はさらわれた孤児」と名乗ると、金持ちや貴族など上流の出自という「嘘」も可能になり、上流階級が一般庶民とは違う法体系で守られていたことで、一般とは違う法的措置も可能になる。

作品の中では、少佐は「自分も孤児である」と海賊たちについた嘘に苦しむ。

この作品は、フレデリックとメイベルの一途な恋とハッピーエンドという表向きのストーリーに隠された社会批判であり、『アメリカ・ファースト』への抗議であり、その手法は巧妙で、一筋縄ではいきません。

「船乗り」のオペラというと、ワーグナー《さまよえるオランダ人》(1842年)をすぐ思います。《ペンザンスの海賊》のニューヨーク初演は1879年。

同じ「船乗りオペラ」と言っても、まったく異質。

やはりオペラは面白い。

そう思いながら家路につきました。


カーテンコール。
すぐにスタンディング・オーヴェーションになったので、シャッター・チャンスを逃しました。これが唯一撮れた1枚。

海賊の旗の右下にヴィクトリア女王もいます

FOTO:(c)Kishi

以下は劇場提供の写真です。© Anna Schnauss

海賊といえば、やはりジョニー・デップ風
スタンレー少佐の娘(養女)たち
英国といえば(薔薇戦争の)バラですね。ドレスの飾りになっています

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

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