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仕事と私:1


 これまで何度か触れているが、私は飽き性だ。雇用形態にこだわらないこともあって、これまで数年単位で転職を繰り返している。その仕事を続ける理由があるか疑問を持ち始めたり、不満が大きくなった頃にちょうどいいタイミングで、体裁の良い退職理由が見つかると、すぐに転職を決めていた。様々な業種を経験することで、得たものは多い。ひとつひとつ振り返ってみるとする。


 初めてのアルバイトは、飲食店だった。スーパーの駐車場の一角に建てられた掘っ立て小屋のような店舗で働くことになった。レジに立って笑顔で接客をしながら、材料の準備を効率よく行う。指示を待つだけではダメで、自分で考えて行動しなければならない。様々な経験を持った幅のある年齢のスタッフが集まり、コミュニケーションをとっていく。社会人としての基本的なことを学んだと思う。

 さほど多くないスタッフの中で、よくシフトが一緒になっていたのが同じ高校の先輩だった。ちょっとやんちゃ系だが、普通に仕事を教えてくれる良い人だと思っていた。あるとき、レジ金が数千円単位で足りなくなることがあった。またあるときは、お客さんの忘れ物の財布を一時保管し、持ち主の手に戻った際「現金が減っている」と言われたことがあった。主にレジを担当していたお前が釣銭を間違えたのだ、と私に言ったのも、忘れ物を届け出ずに店舗で保管しようと言ったのも、その先輩だった。レジ金が足りなくなるのは度々起こり、何度目かのその時、店長に謝りながら、つい本音が出た。
「私、そんなにお釣りを渡し間違えてるでしょうか…」
すると陽気なタイプの店長からこう返ってきた。
「はあ?そんなわけないやん。」
毎度自分のせいだと思っていた私はきょとんとしてしまった。聞くと、先輩が悪さをしている見当はついているが、人員が足りなくなるので辞めさせることも問い詰めることも出来ないという。私はこの時、理不尽や不条理の積み重なりで社会が成り立っているのかと悟ったような気になっていた。その後、どうしても出勤する気になれず、1度くらい…と仮病を使って休んだことがあった。陽気だが悪ノリするタイプの店長と、先輩から電話が掛かってきた。
「風邪だなんて嘘だろ。今すぐ来い。履歴書があるから住所は分かってる。確かめに行くぞ。」
嘘をついて休んだ罪悪感はあった。家に行くのは冗談だと後から言われたが、脅迫めいた口振りに恐怖を感じた。複雑な思いに嫌気がさし、辞めることにした。店長にはわざわざ食事に誘われ引き留められたが、事実を混ぜた適当な理由をつけて
「そ、それを言われたら引き留められないやん…ズルいよ…」
と言わせ、無事に辞めることができた。

 仕事自体を振り返ると、接客の楽しさを覚えた職場だった。笑顔を褒めてもらったことがあり、自信になった。しかし、いつも使っている割りばしの箱に不快害虫が繁殖しているのを発見したときのことはトラウマのように未だに頭に残っている。虫が大の苦手だ。今後一切飲食店では働かないと心に誓った。

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