#8.わたしはどうしてアナウンサーになったのか。その②
《前回のお話》
実は、アナウンサーにはなりたくなかったわたし。
というのもきちんと理由があった。その理由は高校生の頃まで遡る。
地元テレビ局のミニ番組で、高校生リポーターを務めたことがあったのだけど、そのとき大きな衝撃が走ったのだった…。(↓前回記事はこちら)
高校生リポーターとしての記念すべきテレビ出演は、一日中ふわふわした気持ちで臨んでいた。
本物のアナウンサーに、大きなカメラ。
明るく照らすレフ板に、カウントダウンをするディレクター。
そう、どれをとっても、本物のロケ現場だ。
カメラが回ると、先程よりもワントーン明るめの声とまぶしい笑顔で、快活に話し始める女性アナウンサー。
え、さっき挨拶した姿とは全然違う!と、彼女の声の大きさに驚く。
そして。
いよいよわたしの番だ!
「北上市の高校生リポーターを務めます、粟津ちひろです。よろしくお願いします」
こんな感じで自己紹介し、オープニングトークを撮り終える。
市内の小さな小学校で、地名からとった「二子(ふたご)さといも」の紹介がメインのロケ。
確かその里芋を使った給食を一緒に食べる、という、いわゆる食リポを含む内容だった。
間近で見る女性アナウンサーの食リポは、声のトーンや言葉の選び方に加えて、表情までしっかりこだわりながら伝えていて圧倒された。
一方のわたしは「ねっとりしてておいしいです」とか、そのくらいしか話せなかったと思う。
あっというまにロケは終わった。
その日初めて、テレビ局の仕事やアナウンサーという職業を目の当たりにし、頭の中はお花畑状態だった。
どこを切り取っても高校生のわたしには輝いて見え、とてもキラキラした体験に満足して帰ったのだ。
が、しかし。
現実は1ミリもキラキラしなかったのだ。
後日、オンエアを見たわたしに、大きな衝撃が走った。
オンエア当日。
放送開始時刻になり、急いでチャンネルをあわせる。
お、いよいよ始まったぞ…!
きたきたきた、わたしの出番だーーっ!!
・・・ん?
・・・あれ?
わ、わたしの顔が…
む く ん で い る。
…!?
か、顔が…パンパン!?
人から見たら、たいしたことない話。
がしかし、多感な時期の少女にとっては、それはそれはとてつもない衝撃と大変なショックだった。
なんだこれは、ものすごくグロテスクな映像じゃないか。
二子さといもの紹介どころではない。
むしろわたしの顔そのものが、さといもになっていた。
わたしの顔が画面いっぱいに写った時なんか、もう悲劇でしかない。
確かに少しはむくむタイプだけれど、ここまでひどいむくみ体質だったんか…?いつからだ…?
そればかりが頭の中を駆け巡る。
学校のトイレの鏡やお風呂場で自分の顔を見ることはたくさんあったけど、自分がこんなにむくみ丸だとは思わなかった。
もう、番組の内容など1ミリも頭に入ってこない。
パンパンに膨れ上がった顔が画面を占領し、「小学生のころはそこそこモテたような気がする」という謎の自信も、虚しく散っていった。
(小学生の頃の話をいつまでも引きずる女)
更に拍車をかけたのは、翌日、小学校からの友人に言われた一言。
「見たよ見たよ〜!良かったじゃん!でもさ、うちの母親が言ってたんだけど、ちひろちゃん久々に見たけど、あんなに顔パンパンだったっけ〜?って言ってたよ!」
…いやおおおおぉおぉぉおぉぉぃいいいい!!
一番リアルやんけえぇえええぇ!!
(おいでやす小田風)
友人の感想ではなく、あくまで「友人の母親の感想」というのが、激しく胸に突き刺さる。
ショック。ショックだ。
あの超むくみの衝撃たるや、今でも忘れない。
そこからわたしは、なぜか検証に入った。
なぜわたしはここまでむくんでいたのだろうか。
なぜあんなに顔がパンパンに見えたのだろうか。(実際パンパンだったけど。)
そう、思い当たる節はいくつかあった。
1. 泣いた。
ロケ当日の朝、母親に怒られて、めそめそ泣いたんだった。何で起こられたかは覚えていない。
それでも、いつもより目を大きくしていこうと思って多少アイメイクをするも、顔がパンパンにむくみすぎて、一向にその効力を発揮しなかった。
2. 日光
VTR最初の自己紹介ではレフ版が当てられたため、まぶしすぎて目がうまく開けられなかった。初めてのレフ版に目が細くなる。な、なんだこれ、まぶしい。それなのに精いっぱい笑顔を作ろうとしているから、結局さらに目が細くなりパンパン度が増す。
3. 遺伝
体質的に、むくみ遺伝。家族も全員むくんでいた気がする。世の中には朝起きた瞬間から晩まで、ずっとすっきり顔の人っているもので。でもわたしは正反対。脚よりも顔にむくみが出るため、起きた時と寝るときは、顔が違う。夜になるほどむくみがとれ、少しすっきりする。午前中だったし、まだむくんでいたのだろう。さすがに遺伝には勝てないか。
…と検証したはいいが、だからといってむくんだ過去は消せない。
はぁ、自分がこんなに顔パンパン種族だとは思わなかった。
大変なことに気づいてしまった、17歳のあの日。
この経験からわたしは、「絶対に画面に映る職業にはならない!!!!」と心に強く決めたのであった。
もうむくみなんかで傷付かないぞ、と。
それなのに、
それなのに。
気付いたらアナウンサー試験を受けていた。
あんなに嫌だったのに、なぜ受けてしまったんだろう。。
(続く)