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【6】モデルのころ

高校2年生になる春休みに、エリア限定読者モデルの面接を受けに行った私は、周囲の華やかな同世代女子の中で、飛び抜けて小さく、そして垢抜けない子だったと思います。

面接を受ける前に、これは勝ち残れないということを、ひしひしと感じていましたが、それでも背を向けて帰ろうとは思えませんでした。

まず、この面接を受けることが・・・
“私を変えてくれる”
”あの女優さんのように強くたくましくなれる第一歩”
になれるのではないかという想いがあったのです。

エリア限定ということで、遠方の撮影には呼ばれないということ、ギャラもそんなに高くないことなどが説明され、学校の許可証を提出した人から面接するので、番号順に並ぶように言われました。

学校側にもきちんと説明し、学業に響かない程度で節度ある活動であれば良い、という許可をもらっていた私は比較的早く面接に呼ばれました。

面接官は男性ばかり5人、面接を受けるのは一度に3人でした。
私以外の2人は、とてもハキハキと受け答えしていて、とても可愛らしい子たちでした。

モデルになるために、ダンスを習っているとか、ボイストレーニングを受けているとも話していました。

『私とは全くレベルが違う・・・』と気持ちが負けそうになりましたが、
面接官は私のたどたどしい答えにも耳を傾けてくれたので、一生懸命熱意を伝えました。

面接官「最後に聞かせてください、どんなモデルになりたいんですか?」

私「私は身長が150cmに届かないので、周りから子どもっぽく見られたり、欲しいお洋服が大きすぎたりすることがよくあるので、それがコンプレックスでした。同じように悩んでいる子が、きっといると思うので、背が低くてもおしゃれを楽しめるってことを伝えるモデルになりたいです」

私の精一杯の答えに、真正面の面接官は大きく頷いてくれたので、もうそれだけでいいと思えました。

私は、私の想いをきちんと話せるということが、大きな自信になったのです。

・・・そして1ヶ月程経過した後。

モデル事務所から届いた封筒は、厚みがありました。

驚くことに、エリア限定の読者モデルとして採用されたのです。
 
読者モデルとしての活動は、エリア限定ということもあって、思っていたよりもゆったりとしたものでした。

季節ごとに撮影があるだけで、それ以外にお仕事が来ることは無かったのです。

一緒に採用された子たちは、ほとんどが女子高生で、お互いにライバル視しているのが伝わる、緊張感のある関係でした。
・・・とはいえ、私は見るからに小さくて、本格的なモデルを目指していないと言っていたので、比較的他の子たちから優しくしてもらえた気がします。

私達は雑誌の中でも、特集の中の一部に登場する程度の扱いで他の子たちはそれが不満そうでしたが、私には充分でした。

どんなに出番が少なくても、確実に私を知らなかった
『誰かが私を見てくれている』ということは嬉しいと同時に怖さもありました。
その環境に負けず、モデルを続けている自分を自分で褒めることで、少しずつ強くなれている気がしていたのです。

ファンメールも、数えるほどですが届いていました。

私と同じように身長が伸び悩み、ファッションが子どもっぽくなりすぎて悲しいという同世代の子から、参考にします励まされますというメッセージが届くのは、とても幸せなことだったのです。
でもSNSは全く伸びず苦しんでもいました。

こうしていつしか私は、男性に対して持っていた嫌悪感が薄れ、恋をしたいとは思わないものの撮影スタッフさんなどとも、気軽に会話できるようになっていました。

あの時にテレビで偶然みたセクシー女優さんに憧れたことで、私は少しずつ強くなれていることを実感していました。

ただ、自己肯定感は相変わらず低めでした。

読者モデルの中に居ると、自分がそれほど可愛い訳でもスタイルが良い訳でも無いことを思い知らされたからです。

こうしてモデルの活動を続けて暫く経った高校3年の夏、学校で三者面談がありました。
母とは、進学しないことを話し合って決めていました。

そして、私のモデルとしての価値は「高校生であること」だけなので、卒業と同時に辞めて、一般的な就職をしようと考えていました。
また、少しでも早く働いて母の負担を減らしたいという思いもありました。

しかし、そこで先生から言われたのは予想外なことでした。
先生「実は、読者モデルの経験があると、なかなか地元での一般就職は難しいです。このあたりは、やっぱり地方というか田舎なので、モデルという華やかな職歴がマイナスになりがちだと思います…」
とても優しく、いつも私のことを気遣ってくれていた女性担任は、困ったように言いました。

先生「掲載ページが少ないといっても、大手商業誌に出ていたのですから、その経歴を隠す訳にはいきません。それこそよく撮影している、大きな街の企業を受けるなら逆に良いと思いますよ」

母も私も、正直そんなことは想定していませんでした。

先生「もちろん、求人があれば応募はできますが、職歴として読者モデルと書いてしまったら敬遠されるとは思う」というのが進路指導担当者の意見でした。

決して恥じるような経歴ではないはずなのに
『就職に不利になるなんて』と、私ショックを受けてしまいました。

なんとか母と私で・・・
「ダメ元で地元のいくつかの企業に応募してみたい」ということを伝え三者面談ではその方向性で話がまとまりました。

そんな夏休みの終わり頃、事務所から思いがけない提案を受けました。

それは、とある通販会社から・・・
“リトルサイズモデル”として私を使いたいというオファーが来ている、というものでした。

それも、女子高生としてではなく、これから身長低めの社会人ファッション用のモデルとして、採用したいというものでした。

私のコンプレックスである、低い身長を生かしてモデルができることはとても嬉しいことでした。

母に、このオファーのことを伝えると、とても喜んでくれました。
「ちひろの良さを認めてくれるところで働けるなら、挑戦してみてもいいんじゃない?」
家事は得意な方でしたし、好きだったので一人暮らしもできるのではないか。

母にそう諭され、私は心を決めました。
そして、18歳の春。

私は通販会社の専属モデルとして、家を離れ一人暮らしをしながら、新しい活動を始めました。

読者モデル時代とは違い、基本的に撮影は私をメインに単独で行われました。

色々な服を来て、ロケーションも変えての撮影は本当に大変でしたが、とても楽しく充実していました。

スタッフさんは男性が多めでしたが、皆さんプロフェッショナルで、個人的に声をかけてくるような方はいませんでした。

通販雑誌の商品のページのリトルサイズ特集に、私の写真ばかりが使われているのは、気恥ずかしくもあり、誇らしくもありました。

私が着用した商品の販売数が伸びたと聞けば、やはりとても嬉しく思ったものです。

安心して仕事ができ、新しく住み始めた街での生活にも慣れていたつもりでした。

・・・しかし実際はめまぐるしく変化した環境に心がついていけず、伸びないSNSにも悩み、少しずつ無理をしていたようです。

1年目はなんとか駆け抜けたのですが、2年目はちょうど二十歳になるということで、背は低くてもちょっとオトナ感を出そうか、という方針で撮影が進められました。

それが私にとって、思いのほか苦しかったようです。

後輩も入ってきて、なんとなく焦りがあったのかもしれません。

その後、会社の配慮で1ヶ月近い休みがもらえることになった時にぐったりして1週間ほど引きこもりになってしまいました。

『このままでは潰れてしまう』そう思った私は新幹線のチケットを予約し、それまでの無気力さが嘘のように、旅支度をして家を飛び出し実家に戻ってしまいました。

連絡もせずに帰った私に、母はとても驚いていましたが、何も言わず仕事で疲れている中で当たり前のように手料理を振る舞ってくれました。

家に帰って来たとはいえ、特にすることもないので、残していた荷物を片付けておこうかなと思い立ち、しまい込んでいた箱などを開けていた時。
その写真を見つけました。


私の七五三の時の写真を…。


幸せな親子3人の写真には、もちろん父の姿がありましたが、私の心が騒ぐことはありませんでした。

それよりも、その背景の神社に懐かしさを感じ、厳かな感じや巫女さんの優しさなどが一気に思い出されました。

『そうだ、久しぶりに大好きだったこの神社に行こう」

急に思い立って、私は実家から参拝に出かけました。

幼い頃は少し怖く思えた鳥居を抜け、木々に囲まれた参道を進むのは心地よく、呼吸するたびに心身が清められるような気持ちになりました。

参拝して、おみくじを引こうとお巫女さんに番号が書いてある札をした時、幼い頃と変わらず、にこやかに微笑んでくれるお巫女さんに心安らぎホッコリとしていました。

そんなことを考えながら引いたおみくじは【吉】
中でも、「願い事 迷わず進めば叶う」のような一文がありました。

お巫女さんの姿・おみくじの一文を見た瞬間、私にはまるでお告げのような言葉が頭の中に響きました。

『ここが、私の居るべき場所』
それは実際に聞こえた声ではなく、直感的な私自身のひらめきでした。

たまたま家に帰って来て、たまたま開けた荷物に七五三の写真があり、閃いたように足を運んだ神社で全ての事を運命のように思えたのです。

全てが通じたように”これしかない”と自分の運命を決めました。

 「お巫女さんになろう」

私はモデルを辞めること、あの日憧れていた”巫女”として働くことを心に決めた瞬間でした。

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