高1の夏、先輩が呟いた忘れられない一言【ヤマシタのおたより#19】
私は高校1年生のとき、1年間だけ、水泳部のマネージャーをしていました。
本当は選手をしたかったけど、中学生の時に肩を壊した私には無理な話で。
悩んだ末に選んだ、マネージャーでした。
私が所属していた中学の水泳部は、公立の強豪校。
全員必死に頑張っていて、顧問も熱心で、4月末~10月中旬まで外で泳ぎ、雨の日も雷が鳴らない限りは練習を続ける。
冬場は、平日は陸上部並みに走り込み、土日は市民プールで他校と合同練習。
そんな環境でした。
ただ、練習だけに力を入れていたわけではなくて。
「速いだけ、強いだけではあかん」という顧問のもと、色んなことを学び、経験し、チームのことを考え、引退式では涙、涙、涙…というような部活動でした。
でも、高校はちょっと違っていて。
正直言って、強豪校ではない。
顧問はほぼ来ず、チームとして強いのではなく、「速い人が所属している」という感じ。
(規定で中学は教師がプールサイドにいないと活動不可だったのですが)
「サボろうと思えば、いくらでもサボれる」
…こんな感じでした。
それが悪いわけではないけれど、私には違和感があって。
でも、2年生・3年生の男子部員は、違いました。
(もちろん同期にも真面目な人はいたけど…それでも。)
先生が怖いわけでも、誰かに言われるわけでもない。
だけど、しっかり取り組む。
自分で考えて、ベストを尽くす。
そんな先輩方ばかりだったんです。
他校と違って、屋内プールがあるわけでも、環境が整った高校との交流があるわけでもない。
熱心な顧問がいるわけでもないし、市民プールが借りられるわけでもない(府立だったので)。
手を抜こうと思ったらいくらでも抜けるし、それで誰に責められることも、ない。
この環境で頑張るって、すごいことだと思います。
そんななか、ひときわストイックな先輩がいました。
その先輩は体育祭の応援団長も務め、部活以外の活動にも精力的。
でも水泳に対して決して手を抜かず、誰より追い込んで練習をしていました。
朝練をして、授業に出て、応援団の練習をして、練習をして、帰宅。
…するのではなく、道中で通っているスイミングスクールでさらに泳ぎこむ。
体育祭後は、団の練習をしていた時間をさらに水泳に充てて、追い込む。
大変な努力だったと思います。
マネージャとしてそばで見ていて、少し心配になるほどでした。
そんな先輩が出た、高校最後の府大会。
大阪は、水泳のレベルが高いことで知られています。
正直、府大会に出るだけでも、大変。
(私は中学で、北大阪止まりでした…)
でも先輩のベストタイムは、府大会どころか次のステージである近畿大会に迫るレベル。
きっと進めるだろう、と思えるところまで、来ていました。
大会当日、めちゃくちゃドキドキしながら会場入りしたのを覚えています。
私が泳ぐわけじゃないのに。
ただ、残念なことに私は先輩のレースは見られず。
近畿大会に出場した際の説明会が、レースの時間にかぶっていたのです。
(運営をめちゃくちゃ恨みました。笑)
祈るような気持ちで、半分上の空で、説明会に出席。
一通りを終え、ふわふわとした気持ちで、どうだったかなと心臓をバクバクさせながらチームの応援席へ戻ると。
先輩の姿がありました。
どっちだったんだろう…と思うものの、直接は尋ねられず。
キョロキョロしている私に、別の先輩が、教えてくれました。
「ダメだった」と。
どんな言葉を掛けていいか分からず、何も言わないのが正解な気もして、私は「お疲れ様でした」とだけ言いました。自分なりに、心をこめて。
その後の先輩は、チームメイトの応援をしたり、他校の同期と楽しそうに話したり。
笑顔も見えて、私には、なんだかスッキリしたように、見えました。
「ああ、案外大丈夫なのかな。やりきったもんな。」と、安心も覚えました。
ところが。
閉会式のため整列したとき。
隣にいる先輩が、「なあ、やましー(私)?」と声をかけてきました。
どうしたのかと、隣を見上げると。
まっすぐにプールを見つめる先輩がいました。
なんか、シュッとしすぎて、映画のワンシーンのようでした。
周りの声も、その時だけ無音になった気がしました。
そして、言ったのです。
「報われへん努力って、あるんやな。」
その瞬間、言い表せられないような感情が、体中を駆け抜けて。
何が、「案外大丈夫かも」やねん。
「やりきったもんな」やねん。
私のバカ。
と激しく後悔しました。
もっと、できることがあったのではないか、とも。
先輩がどんな想いで、高校生活を過ごしてきたか。
私は1年生だから半年ちょっとしか知らないけど。
きっと、1年生のころから今日を目指して、頑張ってきたんんだ。
マネージャーなんだから、やっぱりちゃんと声を掛ければよかった。
こんな思いが、めぐりました。
でも、次の瞬間、その後悔も、ふわっと浮いていきました。
先輩が、ふと笑ったから。
もしかすると、この瞬間に、少し彼のなかで変化があったのかもしれません。
マネージャーに(だけ、かは分かりませんが)こぼした、
「報われへん努力って、あるんやな」。
この一言は、あれから約15年が経った今でも、忘れられません。
(約15年という歳月の長さに驚く…)
そして、報われないかもしれないと分かっていても、人は努力してしまうのだな、としみじみ思います。
18歳の先輩がおっしゃった、この言葉。
18歳といえば、まだまだ若者のように思えます。
でも、16歳だった私には、衝撃的で、なおかつ物事の本質を悟った言葉のように、思えました。
そんな先輩。
実は、卒業以来、お会いしていません。
でも、インスタグラムは繋がっているので、私はほほえましく投稿を見ています。
今では立派な、パパだから。
いつかお子さんにも、水泳部で頑張った日々のことを、ぜひお話ししてほしいなあと、思います。
完
追記:
先日の冬季五輪で、羽生結弦選手も「努力って報われないなあ」とおっしゃっていましたね。そのときも、この先輩のことを、思い出しました。
きっとこの言葉が出てくること自体、ものすごいことなんだと思います。
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