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母性は急に、生まれない。
産後5日目。退院の日。
病院に夫が迎えに来てくれた。出産の立ち会いも入院中の面会も禁止だったので、夫は赤ちゃんと初めてのご対面。
3170gの、まあ平均的な大きさの赤ちゃんだったが、今まで生まれたばかりの赤ちゃんを見た経験がなかった夫は、その小ささに驚いた表情をしていた。おろおろしながらも「ありがとう。」と私に向かって言った夫の目は、うるんでいた。
一方で私は、夫と赤ちゃんのご対面を見て、親は私ひとりじゃない。私がこの子の親であるのと同じくらい、夫もこの子の親なのだ。ということを感じ、少し肩の荷が降りた気持ちでいた。
入院期間中、ずっとずっと心細かった。授乳もなかなか上手くいかない。どうしたら赤ちゃんが泣き止むのか、わからない。初めての育児にひとりで戸惑い続けた。
病院にいるので、たくさんの医療関係者がいつでもいる環境であるのだけれど、この小さな命をひとりで預かっているというプレッシャーをいつでも感じていた。夫と会えて、そのプレッシャーから少し解放された。改めて、私の中での夫の存在の大きさに気がついた。
里帰り先の私の実家に帰宅して、家族に見守られながらの育児がスタートする。
陣痛が始まった日からほとんど寝てない状態が続いていて、正直私はイライラしていた。どうか、どうか私を寝かせてほしい!と期待していたけれど、実家の家族や夫も、赤ちゃんのお世話の仕方がわからず「どうすればいい?どうすればいい?」と私に聞く。
私だって知らん!ググれ!と新入社員に厳しめな先輩社員みたいなことを思いながらも、説明する。
誰に抱かれても、泣き止まない赤ちゃん。
「やっぱりママがいいよねえ!」なんて言われて、私が抱っこする。内心、まだ誰に抱かれたって一緒なのでは...。と思ってしまう。
私には一人の人間としての自我がある。
それは、産む前も産んだ後も一緒なのだけれど、一緒に退院した私と赤ちゃんは、いつでもセットだし、セットでみられてしまう。その感覚が初めてで、戸惑った。
そもそも、ママという言葉で自分が呼ばれることに、まだ慣れない。過敏に反応してしまう。心も体も、全然ついていかない。
赤ちゃんの誕生を、ずっと楽しみに待っていた。ずっと憧れだったママに、やっとなることができた。それなのに、違和感と苦しさを感じてしまう自分。
「あるべき母性が私にはないのではないか?」
そんな思考に囚われて、さらに苦しくなった。
母性はいつ生まれるのだろう。
母は強しというけれど、いつ強くなれるのか。
出産を乗り越えたら母性は生まれるのか。強くなれるのか。
私は、母になれば自然と母性が生まれるものだと思っていた。けれどそれは、違ったようだ。子を産んでも、私は変わらない。
私は、驚くほどに私のままだった。
妊娠出産〜育休明けまでを振り返り、綴っています。
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