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しにそこねた

校舎四階の自習室、見上げた空が怖いくらいに青かった、ふらついたホームで女子高生が自撮りをしていた、包丁を持った夜にお父さんの手術が成功した、ODだって結局中途半端で終わった、僕は死ねなかった、僕は死にそこねた、どうしたら誰も傷つけずに死ねる、どうやったら綺麗に消えることができる?
思い出なんて作らなければよかった、誰とも話さずひとりで死ねばよかった、小説なんて書かなければよかった、ネットなんて始めなければよかった、大切な人になんか出会わなければよかった、中三の冬に死ねなかったのが失敗だった、寒くて苦しくてただ夜を彷徨ったあの日に全てを手放していれば、スマホも持っていなかったあの時、未明パソコンから流れる音楽に救われたりなんかしなければ、1mmの希望なんかに縋らず綺麗に逝けたのに。
いつか普通になれるかな人並みに生きられるかなってずっと思ってた、根拠もなく信じてた、でもまだ十五歳だった、自分からしたらもう十五歳だから中学で死に損ねた感あるけど、この先もっと辛い十六歳十七歳が気持ち悪い顔して待ってるんだよな、高校生にさえなりきれてないみたい、ここから辛い日々が始まるんだよって言われている感じ。
僕もう無理かもしれない、そんなことをずっと口にしている、心で反芻している、鍵垢で小さく呟き続けている、今日だって大量の頭痛薬を飲んで、ぼーっと空を見ている。死ぬなら今日かもしれないと思った、死んでしまわないといけないと思った、でもロープさえ家になくてどうすればいいかわからなかった、結局今も青い空を見ている、十月なのに夏みたいな積乱雲がのびている、致死量の日差しを瞳に受けている。
僕はきちんと死ねるだろうか、こんなことを言っておいて無理なのだろうか、もうとっくに限界なはずだ、涙も枯れている、心が激しく波打っている、もう何もかも信じられない、それなのに縋れる何かを探している、僕は僕が何なのかもうわからない、わかりたくもない、わかる前に死んでしまいたい、全部を捨ててどこかに行きたい。
しねなかったという罪を背負っている、ずっと罪悪感に苛まれている。このまま生きていてはいけない気がする、はやく死ねばもっと何かに近づけるような気さえする。死は終わりであってそれ以上でもそれ以下でもないはずなのに、そこに美を求めつつある自分が怖い、どうせなら綺麗な場所で綺麗で死にたいと思ってしまった、でもそんなの汚れた自分には合っていない。
僕が死んだら葬式なんてやらないでほしい、骨も自然の一部になればいい、気持ちが悪いからお墓になんて入れないでほしい。誰にも気が付かれず死ねたりとかしないのかな、やっぱりそんなの無理なのかな、生まれてきたこと自体が間違いだったんだろうな、あぁごめん、もう少しで死ぬから。きっと、きっと、青い空を泳ぐ鳥になるね。


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