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街の人たちの議論が終わらない、フランスのローカルシネマの夜

本当は下の写真をカバーにつかいたかったのだけれど、カバー写真は上部が切れてしまうため、つかえなかった。まさに映画のショットのような、あまりに絵になる、地方のひなびた映画館。


ブルゴーニュ地方の街モンバルMontbardから、車で10分くらいのセミュールSemurという街にある、まさにローカルシネマ。

2005年からつづいているフランスの長寿テレビ番組に、『愛は牧場のなかに』L'amour est dans le prèというのがある。農業従業者の結婚相手を探すのが大変なので、テレビで集団お見合いをするという番組(らしい)。その題名にひっかけた、『死は牧場のなかに』La mort est dans le prè(2012)という映画の監督がトークに来るというので、おばさんが連れて行ってくれたのだった。

映画は農薬pesticidesが人体に及ぼす影響についての、ドキュメンタリー。毎日農薬を扱い、骨髄ガンになってしまった農業従業者の、痛々しい姿が冒頭付近で映され、かれら家族が病気と闘っていく姿や、自分たちが陥ってしまった状況を知らせようとする姿や、それを乗り越えて有機栽培に挑戦していく姿が、描かれている。監督だけでなく、2018年9月に始まった、農薬禁止を訴えるコクリコ運動の代表者の人も来て、話をしていった。

コクリコle coquelicotは、ポピーの花(カバー写真)。農薬まみれの土地では、ポピーは育たない。ポピーは人と環境にやさしい農業を訴えるための、象徴なのである。

映画は夜の8時半からで、1時間。監督の話が入っても、10時くらいには終わるだろうと、わたしは思っていた。するとおばさんは、11時半くらいになるかも、という。映画を観にきた人々の議論が終わらないから、というのだ。

パリの映画館とはちがうのよ、と彼女はいう。映画の性質にもよるが、このローカルシネマでこういうイベントがあるときは、人々がまさに観るだけでなく、まさに話にくるのである。

映画館は満席。終わった後で飲み物や食べ物が出たりもするらしいが、その日は出なかった。

現地のひとである彼女のいうことは、もちろん正しかった。ローカル映画館では、マイクが映画館の中心付近でなければ、うまく作動しない。マイクなんか通らなくったって(聞いている方は大変なのだが)、人々はわれもわれもと、自分の意見を繰り出しつづける。

これがフランス人なのよ、とおばさん(いまさらいうまでもないが)。自分の思っていることはなんでもいいから、とにかく喋りまくる。地方の街では、人々がお互いに知っていることも多い。そういういわば共同体の人々が、公共の場所に集まっては議論する、というわけ。

結論を簡単にいえば、値段が高くても消費者は有機栽培bioの食物を買う必要があるし、また食物を移動することは環境に良くないので、地産地消を心がける、ということである。日本では、有機や減農ではあるものの、日本各地(世界のことも)から宅急便で送られてくる野菜を買ったりすることもあるわたしには、耳の痛い話である。地域の元気そうな野菜を見たら、買うようにはしているが。

あなたも話好き、議論好きな、そしてまわりの知らない人たちにもどんどん話しかけてしまう、フランス人格を持たなきゃダメよ、と彼女にハッパをかけられる。

そういう場所にいることで解放されるというひとも、いるだろう。そんな境地まで行けたらいいのであるが、わたしはまだまだ、あくまでも驚異と感動の目で、かれらを観察しているばかりである。

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