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御食国ワンダーランド小浜①発酵編

しばらく時間が空いてしまった「ローカル見聞録」、これまで"ダイバーシティなカルチャーマガジン"「mazecoze研究所」のみで展開してきましたが、平原礼奈さんともご相談して、noteと連動しながら投稿数を増やしていきたいなと考えています。(頑張る!)

食の町、「御食国」小浜

皆さま大変ご無沙汰しております。
突然ですが、「御食国」←この漢字が読めますか?
正解は、"みけつくに"なのですが、なかなか読めませんよね。安心してください、私も少し前まで全く読めませんでした。
そして、実は日本には「御食国」と呼ばれている場所が3箇所あります。

・福井県小浜市
・兵庫県淡路島
・三重県伊勢市

それらがどういう場所かというと、かつて宮廷や皇室へ豊かな食材を献上してきた場所。もちろん宮廷へ献上されるのですから、品質は国内でもトップクラス。そして現在のように冷蔵技術や物流がなかった時代、新鮮な食材を都まで運ぶために、豊かな発酵技術なども、ともに生まれました。
さらに小浜の場合は、北前船の歴史とともに、日本の食文化の基礎をかたちづくってきた歴史風土と食文化があり、もう”地域と食”をテーマに活動している自分にとっては垂涎ものの、「豊かな食と風土、発酵の町」なのです。

モルガン登場!そしてUMIHICOさんとの再会feat.サチコ

UMIHICOほりこしさん&みきちゃんと、1年半ぶりの再会

そして今回のミッションは、以下の通り。
①フランス人インターン生・モルガンを小浜へお届け
②今年度事業のロケハンと打ち合わせ等

7月から私の事業で、フランス・ブルターニュ地方の「IMA JAPON」さんよりお預かりしているインターン生・モルガンを、小浜市を代表する若狭塗箸の老舗である「マツ勘」さんで預かっていただくため。
そして今年度事業として、UMIHICOさんと計画している事業のロケハンと打ち合わせを行うこと、です。相棒は皆さんご存知、淡路島のサチコ

小浜は東京からだと片道6時間かかるのと、御多分に洩れず今回も滞在時間24時間ほどなので、息切れ気味に分刻みスケジュールをこなしていきます。

▼UMIHICOさんについて過去に書かせていただいた記事はこちらから

近江今津駅にて再会。鯖街道、いくぜ!

小浜と水、豊かな関係性

はじめに訪れたのは、「小浜と水の豊かな関係性」を知るのに外すことができない、神仏習合のお寺・若狭神宮寺。(余談ですが、私は神仏習合マニアです。笑)
こちらではお寺の中から豊かな湧き水が湧いていて、住職の方々が1週間かけて聖水にしたものを、毎年3月2日に行われる「お水送り」の行事で川に流すのだとか。とっても不思議なのは、それが10日間で届くとされる3月12日には、奈良の東大寺でそれを受け取る「お水取り」という行事がいまも続いていること。
現代のようなインターネットなどもないなか、どうしてこんなに離れた二つの土地で、連動した精神世界と行事が生まれ、続くことができたのか。毎年3月2日には、必ず雨が降るんだよ、というお二人の話を聞きながら、毎度思うことですが「小浜には本当に神様がいるんだな」と感じました。

うつくしい若狭神宮寺の門
若狭神宮寺のお水送り堂(本堂)

伝統発酵食「へしこ」

さて、すでに息を切らせながら、次の場所へと向かいます。
小浜が誇る伝統発酵食である「鯖のへしこ」をつくられる、「かどのさん家のへしこ」角野高志さんです。

「へしこ」とは、小浜の言葉で「漬け込む/押し込む=へしこむ」というようで、塩漬けし米糠で漬け込んだ魚類の発酵保存食を「へしこ」と呼びます。
その昔、小浜では信じられないほど鯖の漁獲量があり、食べきれないため畑の肥料にしていたほどだとか。現在は「鯖のへしこ」として定着しましたが、昔は食べきれない魚や、雪に閉ざされ漁に出られない冬場の発酵保存食として、さまざまな魚を「へしこ」にしていたようです。

やさしい表情でへしこを"育てる"かどのさん

そしてこのへしこ、とんでもない工程と先人の知恵が詰まりまくっています。
まず水揚げされた鯖を血抜きし、丁寧に洗う。この過程で血が残っていると臭みが残るといいます。その後、塩漬けし、米糠の中に最低でも1年間漬け込むという大掛かりな作業。(長いものだと5〜6年や10年にも及ぶのだとか)

製造工程についてたくさん質問をするモルガン

モルガン、魚の発酵製造現場を視察するのも初めてなら、私も鯖のへしこの製造過程を英訳するのは初めてで、震えました。笑
そしていつもながら日本の伝統工芸や製造現場を英訳していて思うのですが、英語は論理的な言語なので、訳する過程で「なんでそんなことをするの?」ということがたくさん起き、改めて日本はワンダーランドであることを再確認させられます。これがとっても面白い。

この日は特別に、鯖のへしことなれ鮨(鯖のへしこを水洗いし、さらに米とともに発酵させた"ハレの日"の食事)を試食させていただいたのですが、これがまたとっても香り高く、滋味深い

初めての「鯖のへしこ&なれ鮨」に、開眼するサチコ
おいしさにびっくり!モルガン

モルガン曰く、フランスでも「鯖のへしこ」の味わい深さは、好きな人たちが多いと思うとのこと。そして、白ワインに合いそうだね!と。(めちゃ同感)しかし我々日本人が感じるような、"チーズのような旨み"という表現には、はっきりNOとのこと。
改めて「味わい」とは、味覚だけではなく、記憶や環境や、あらゆる文脈によって成り立つのだなと考えさせられる面白い時間でした。

しかし、「鯖のへしこ」も存続の危機にあります。
かつては肥料にするほど獲れていた鯖も、今では漁獲量が減っている高級魚。そして昨今の原料高によって、角野さんもいつまでつくり続けられるかわからないのだとか。
私たちにできることは、食の現場の現状をより多くの方々に知ってもらい・関心を持ってもらい、一緒に考え支援していくこと。改めて身の引き締まる思いでした。

この1樽になんと50匹の鯖のへしこ

300年続く米酢「とば屋酢店」

その後、駆け足&汗だくで向かったのは、伝統製法を守り抜く「とば屋酢店」さん。昔ながらの製法で、壺仕込み米酢をつくり続けて300年の歴史がある(!)とば屋酢店さんは、伝統的な米酢から、暮らしに寄り添う多種多様な商品を展開されている素晴らしい企業さんです。
鹿児島出身の私には、壺の形が、大陸から伝わったとされる鹿児島の黒酢の壺にとてもそっくりに見え、とても面白く拝見しました。

暑すぎるので、お酢蜜ゼリーで乾杯

湧き水でつくる、ここだけのお菓子

最後に訪れたのは、小浜市内から湧き出る豊かな天然水「雲城水」を使い、地域においしい和菓子を提供される創業190年の「和菓子処 伊勢屋さん」です。店内に湧き水を引き、そこで天然水を汲んで飲むことができる、幸福。。そしてこの季節とここでしか食べられない、湧水と葛・餡子でつくられた「くずまんじゅう」をいただきます。

美しすぎる、くずまんじゅう
六代目店主・上田浩人さんと

小浜に訪れるたび思うのは、歴史の単位が200〜300年とか、神社仏閣になると1800年(!)などというのが多いので、時空感覚がちょっと歪みます。

さて、怒涛に駆け巡った初日もあっという間。
明日は朝02:30起きで漁船に乗ります。お楽しみに。

こちらの「ローカル見聞録」は、"ダイバーシティなカルチャーマガジン"「mazecoze研究所」でも過去の記事を読むことができます。ぜひお楽しみください!

(写真:ほりこしかずたか、編集・執筆:福留千晴)



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