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『あなたは怒られたことがないでしょ』を読む:明るく楽しい生活は最高の復讐

 日記ワークショップ仲間れもん さきさん(@saki_to)の日記本「あなたは怒られたことがないでしょ」を読む。何しろわたしはワークショップつながりで半年間もさきさんの日記を読み続けているので、ここでさきさんの日記本を読んだ感想を書きたいんだけど、どうしてもそれはこの本単体から生じた感想ではなく、半年間の時間の蓄積から出た感想になってしまう。

 さきさんの日記本を読んでいて、「優雅な生活が最高の復讐である」という言葉を思い出していた。いま調べたら、これはフィッツジェラルド「夜はやさし」のモデルになったというセレブ夫妻の生活を描いたエッセイのタイトルだった。この言葉自体は、かつて自分を貶めてきた人がいたとしても、今現在の自分が優雅に誇り高く暮らしていれば、その生き様自体が「お前らなんか目じゃないよ」という宣言になり、過去への復讐になりうる、というような意味だと思う。

 さきさん(と夫さん)の楽しくおちゃらけつつも愛に溢れた暖かい生活は、さきさんにとって、ひょっとしたら何かへの復讐代わりになっているのではないか。これは正確に言うとさきさんの𝕏で表紙の写真を拝見した瞬間に思ったことでもあるんだけど、実際に本を読んでみてやっぱり同じように感じた。

 さきさんには全然そんなつもりないかもしれない。復讐とか書かれて嫌かもしれない(もしそうだったらごめんなさい。ただのわたしの感想なので許してほしい…)。でも、あえてこのタイトルを選んだ心情の裏に、ネガティブな過去の出来事をバネにして、絶対に明るく楽しく幸せに暮らしてやる!という、さきさんの強い決意がある気がする。

 何に対する復讐なのかはわからない。実家のご家族に対する葛藤とかかもしれないし、子どもの頃に経験した理不尽な出来事とかかもしれない。でも大人になったいま、自分で自分を幸せにしてあげることで、楽しい毎日を送らせてあげることで、さきさんは昔の自分を守り、救おうとしているのではないか。「わたしいま、超幸せなんで。笑笑」と、過去に傷付けられた対象や出来事に、中指を立てているのではないか。そうやって、誰も傷付けない形でさきさんにとっての「最高の復讐」が現在進行形で進んでいて、この日記はその記録になっているのではないか。

 そういえばさきさんは、わたしたちの交換日記で2回「あなたにとって当たり前にそこにあるものはなんですか」という質問をしていた。この質問にソウノアヤコさんは「自由」と答え、phaさんは「インターネット」と答えていた(ふたりとも、なんて「らしい」回答なんだ…!)。わたしだったらこの質問になんて答えるかな?と考えたとき、一瞬「夫、かな?」と思ったものの、「いや、それだけはないな」と考え直した。わたしと夫は、一緒にい続けるために、それなりに努力を積み重ねてきたのだから。いまの関係性は全然当たり前じゃない。植物を育てるみたいに、手をかけてふたりで作り上げてきたものだという自負がある。もしかしたら、さきさんも夫さんに対して同じような気持ちでいるんじゃないかな。決して当たり前ではない存在。お互いに対して気持ちや労力をかけ合って、居心地の良い関係でいるぞという決意のもとに育まれてきた存在。

 たぶんそういう決意みたいなものをさきさんは夫さんと共有していて、だからこの日記では、ふたりで明るく楽しく暮らしつつ、そこに揺るぎない強さみたいなものがあると感じられる。それを日記の形でお裾分けしてもらっているから、わたしはこの日記を読んでクスリと笑ったり、ふたりのやりとりにニヤリとしたりしながら、すごく心が暖かくなるのだと思う。こういう「クスリ」「ニヤリ」と笑える暖かさはこの日記本のとても大きな魅力だけど、最大の魅力はこの、文章の合間から透けて見える、さきさんの決意の強さだ。

 だから、今後さきさんがこの本を再販することにして、ちょっとネガティブで重い内容を加筆することになったとしても、この本の魅力は決して損なわれないし、むしろ増すんじゃないかな。そんなことを考えました。

手描きの名刺、いいよね

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