いつか僕らも強い大人になって
母から突然ラインが入った。
僕が卒園した幼稚園の閉園の取り壊しが始まったのだという。
僕の本籍地は大都会世田谷なのだが、実際に住んでいたのは確か2歳になるかならないかの頃までで、そのあとは今現在住んでいる市に住み続けている。
だから卒園から20年以上が経つとはいえ、この幼稚園は言わば「地元の景色」として非常に馴染みのあるスポットだったわけだ。
加えて、小学校の頃に通っていた剣道クラブの会場がこの園の体育館だったものだったりしたので、園の外観どころか中の構造、独特の”におい”まで未だに記憶しているくらい、非常に思い出深い場所と言ってもいい。
けれども、よくよく思い返してみると、年を経るごとに園の前を通りかかる機会も減ってきていたようだ。
剣道をやめ、数度の引っ越しに伴って最寄り駅がコロコロ変わり、その方面に足が向かなくなっていったのである。
母が気づいたのもどうやらたまたま人づてに聞いたからで、頻繁に通過していたなら、もっと早くに様子の変化を知ることができたかもしれない。
で、だからというわけではないのだが、先日、偶然にその幼稚園前を通りかかった。
園舎どころかお庭も何もかも、すでに跡形もなく潰されたあとであった。
ネットで検索してもどうも状況がよくわからないのだが、管理者の後継ぎがいないとかそういうような問題で閉めることとなったらしい。僕がいた当時でもそんなにきれいな環境とはいいがたく、遊園地の廃品を譲り受けたらしい遊具も元よりボロであったから、まあ仕方ないと言えば仕方ない側面もあるだろう。
園のお粗末なHPを見ると、平成31年度の募集は行われていた形跡がある。解体ってのはここまで迅速に行われてしまうのか。
それにしたってせつないものだ。
* * * *
この園はかなりありふれた名前をしている(だいたい幼稚園なんてそんなものだ)ので、ネット検索をしてもなかなか欲しい情報にたどり着けない。
園歌の歌詞を忘れないうちに書き出してみたのだけれども、細部に自信がない。どうせバレたって困りゃしないので、記憶の限りここに記してみる。
1番
夢は今日も 雲に乗って
青い空を 飛んでゆきました
いつか僕らも 強い大人になって
みんなが夢見る くにをつくろうと
そうです僕らはみんな 声をそろえて
あかるい未来の 歌を歌うよ
○○○○○の お庭から
2番
夢は今日も 風に乗って
緑の丘を 越えてゆきました
いつかわたしたち やさしいおとなになって
みんなが幸せな 国をつくろうと
そうですわたしたちみんな 手を取り合って
あかるい未来に 駆けてゆくよ
○○○○○の お庭から
「○○○○○」には園名が入る。音を覚えるのは得意な方なのでメロディは完全に覚えていたが、2番冒頭は「夢」は「歌」だったかもしれず、5-6行目「声をそろえて~歌うよ」と「手を取り合って~駆けてゆくよ」のどちらが1番でどちらが2番だったかがあやふやなのだ。
と、いう話を友人にしたところ「園歌の存在した記憶じたいない」と言われてしまったので、だいたい覚えているだけマシと思うべきか。
卒園アルバムなどとうに処分してしまったし、戻りたい過去があるでも、くだらない郷愁にとらわれるでもない。
町の景色がどんどん様変わりする中で、僕だけがぽつんと取り残されたような、そんな虚しい気の迷いが頭をよぎっただけの話である。
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