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旧字体の思い出二題

前回の話にちょっと付けたり。

戦前に発行された本で面白いものがあると弟に薦めたりもするのだが、たいていは渋い顔をされる。本そのものがバッチイというのもあるが、曰く、そもそも旧字旧かなで書かれていては読めないというのである。

旧字旧かなというとやっぱり昭和の、それも戦前あたりを生きた人が使っている印象で、僕の周りでは曾祖母が確か旧字を使う人だったと記憶している。

昭和ヒトケタ生まれの祖父はというと、もちろん教育じたいは旧字で受けていたのだろうが、まあふつうに平成も半ばまで生きた人なので、僕の知る限りはふつうに新字を使っていた。

が、これにはちょっと怖い裏話もある。


晩年、祖父は脳出血で倒れ、それじたいはフェータルなものではなく命を取り留めたものの、年齢が年齢だったこともあり、病床に就いてはどんどん弱っていき、そのまま泉下の人となった。

その少し前に、母は祖父にボケ防止として漢字ドリルを贈っていた。

単に読みがなを振るものや書き取りにとどまらず、真ん中に1字入れて四方に熟語を作るような漢字パズル(いわゆる和同開珎)も収録された、まずまず面白みのある本だった。

誕生日にあげたものだったか、とうとう1冊終えることはかなわなかったが、時期的には倒れる直前まで取り組んでいたのではないかと思われる。

で、祖父の死後にそれを紐解いてみると、さすがに教養のある人だから、多少の「うっかり」はありつつも、無難に正解を連発していた。

しかし、終わりに近づくにつれて、どうも怪しい回答が目立つようになる。明らかに意味の異なる漢字を、当て字的に答えている箇所が増えているのだ。
さらに驚いたのは、ここ30年は絶対に使うことがなかったであろう旧字を用いたページが、終盤で加速度的に増えていったことである。

脳疾患の症状としてある種の退行現象が起きていたのか、祖父なりに楽しむためにわざとやっていたのか、今となっては藪の中だが、後者として飲み込むには状況が不自然すぎると思う。

10年以上前の話だが、そのページを見るや鳥肌が立ったのをはっきりと覚えている。



僕が旧字体に興味を抱いたのは小3か小4くらいのころだったと思う。

当時、ギリギリパソコンを使える環境にあり、といって今ほど遊べるサイトは多くなかったから、簡単なフラッシュゲームで遊ぶことが多かった。

その中でも、あおのFLASH&SHOCKWAVE GAMESというのはよく遊んだ思い出がある。

フラッシュゲーム界で有名なのかどうかは知らないし、今にして思えば運ゲーや理不尽ゲーもたくさんあるのだけど、小学生にとってはシンプルでわかりやすいのがよかった。

というか、今確認してまだサイトが生きていることはすごくうれしかった。
(でも、今年末にFLASHが終了するとおそらく遊べなくなってしまう、さみしいことだ)


話を元に戻すと、実は僕が旧字体に興味を持ったのは、このゲームサイトのおかげなのだ。

この中のゲームに「漢太郎」というものがあって、黒板の上に表示された書き取り問題に答えるというものだが、手書きなので正誤判定はもちろん無理。失礼ながら、ゲームシステムとしてはクソゲーにすら到達していないレベルだろう。

が、この中の出題レベル設定に「」すなわち旧字体を問うものがあって、これが僕にとってはめっぽう面白かったのだ。

漢太郎

(マウスだからうまく書けないのもご愛敬)

一時など、このゲームで狂ったように問題を解きまくり、旧字体をノートに書き留めたりもしたものだった。当時でももっと効率的なツールはあったはずなのに、たぶんゲームであるというのが楽しかったのだろう。


どこの誰ともわからない人が作った黎明期のゲームで、なぜだか漢字を学ぶ少年がいて、今なお近代文学を読むのに役立てていたりするのだから、巡り合わせというのはほんとうにわからないものだ。

あの日を楽しませてくださったあおの氏には、ほんとうに感謝申し上げたい。

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