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スルー・ザ・ルッキング・グラス

展覧会の感想を書くのはガラじゃないのだけど、思い入れの強い作品だけあって書きたくなったから少し書いてみる。


ルイス・キャロルの著した『不思議の国のアリス』は、続編の『鏡の国のアリス』とともに児童文学の金字塔と言うべき作品である。

それまでの童話というと、地域は違うが、グリム童話とかアンデルセン童話みたいな「教訓主義」的な性質が強いものが多かったようだ。

その時代にあって『アリス』は、実に奇怪なストーリーで、ともすればナンセンスとも言うべき作風だったから、その新鮮さによって児童文学の歴史を大きく変えることとなったというわけ。
(もしかしたらエドワード・リアの影響も少しはあるのかもしれない)

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全国を巡回し、今回そごう美術館で開催されている「不思議の国のアリス展」は、まず初刊初版本やアリスの自筆スケッチなどを紹介しつつ、本としての『アリス』の成り立ちが説明され、次いで世界に活躍するイラストレーター達によるアリスの指し原画を見ながらストーリーを追い、
最後に多種多様なメディア展開について触れられるという構成であった。

僕のように細かい筋が朧げなファンでも楽しめる工夫がなされていたと思う。

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まず第1章では、『アリス』の成立が解説された。

ある日リデル姉妹に創作話を聞かせていたキャロルは、3女のアリスにせがまれるままに、その話を本にすることを決意する。

最初は挿絵も自分で描き、手書きで作ったオリジナル本『地下の国のアリス』をアリスに進呈したのだが、それが人目に触れることで公刊を決意した、というのが大まかな経緯だ。

公刊に当たっては、当時風刺画家として一世を風靡していたジョン・テニエルに挿絵が依頼されている。
たぶん巷でアリスの挿絵といえば、この絵柄(ヘッダーのブタを抱いている絵とか、懐中時計を見ているウサギの絵とか)が最も浸透しているだろう。

このあたり、キャロルの絵では「まずい」と知人からの進言があったためだそうだけれども、展示してあるキャロルの原画は案外細部まで書き込まれていて、そのままで十分通用するレベルである。

テニエルの挿絵も、キャロルのイメージをそのまま再現し、それを「テニエル化」することによって完成しているから、キャロルの絵の力が足りないと一概には言えないと思う。

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(どうせなら子豚を抱いての記念撮影が良かった)


第2部では、存命の画家たちによる『アリス』の挿絵原画がズラリと並んで、タッチの違いを楽しみながらストーリーを復習することができた。

ところで、アリスの服装について、みなさんはどういったものを想像するだろう。

おそらく、青と白のエプロンドレスが印象として主流ではないだろうか。

これはまず間違いなくディズニーアニメの印象が強いためで、それ以降の絵本とかでも青を基調としているパターンがほとんどである。

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このあたりの経緯について、展示では直接触れられていなかったが、この第2部の原画の中には黄色い服を着せているものもあり(展覧会のポスターも黄色)、果てはエプロンドレスですらないものまで見られたりして、その点が一番興味深かった。

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歴史とかオリジナルがどうとかいう話は抜きにして、僕の個人的意見としては、黄色いエプロンドレスが一番カワイイと思っているのだけど、少数派なのがいかにも哀しい。


そして第3部に足を踏み入れた僕は、ここにきて今少しテンションが上がった。

正面にはモニターが2台並んでいて、1台目では1903年版のフィルムが、いまひとつの台では1933年版のフィルムのトレイラーが放映されていたのである。

僕の好きな、『アリス』の映像化作品だ。

1903年のサイレント版は、フィルムの現存が確認されたときに日本でも少し話題になったが、12分のうち8分しか現存していない。

時間の短さからわかる通り、ストーリーをきちんと追い切れているわけではないものの、当時の技術で精いっぱい世界観を表現しているのが面白い。
(展示にあったのはここまできれいに編集されていないもの)

また1933年版は、フルだと60分を超える大作。予告版を見るだけで、原作に実に忠実な着ぐるみ、特撮の数々がうかがい知れるだろう。

再現度ということで言えば、これは一等優れたヴァージョンかもしれない。
あとシャーロット・ヘンリーが美人。


それから僕が初見だった資料に、オペレッタ版の資料があった。

スチルらしき資料の中には、実写のアリスがアニメのフラミンゴを抱えているものがあり、すなわちスチル上では嵌め込みがなされているわけだれども、このあたりがどう舞台で展開されたのか、今となっては直接的に知る術がないのも悲しいものである。


少し話は逸れるけど、高校の文化祭で、クラスの出し物として演劇をやらなくてはなからなかったことがある。

なぜか責任者の立ち位置にあった僕は、当時ジョニー・デップ版の映画がホットだったことから『アリス』に材をとって脚本を書くこととした。

時間・人材・設備すべてが限られた教室内のものだから、当然ストーリーを完全に再現することは出来ない。

それでも『アリス』をやるからにはできるだけ「アリス」然としなくてはならないと奮闘し、結果、文化祭らしからずマジメに取り組んだ公演として、多少良い評価をいただくことができた。

この際、アリスの体が伸び縮みするシーンを再現するのに参考としたのが、先に挙げた1903年版の映画だった。

懐かしく思い出されるが、あの時書いた台本は散逸、ビデオなどの記録も取らなかったから、今となっては僕の記憶にしか残っていない、「幻の」ヴァージョンである。


そんなこんなで、僕としてはもう少しキャロルのひととなりとか描写の歴史とかを細かく追って欲しい所ではあったが、それでも日本初公開のものを含む貴重な資料を一堂に見ることができて本当に楽しかった。

また、物販コーナーもアリスグッズ満載で、ここでも独りテンションが上がったことであった。

図録は、濃紺(黒?)と水色とがあって、上に書いたように、アリスと言えば黄色派である僕は「水色かぁ……」と思ったものの、まあどっちがカワイイかと聞かれれば断然水色なのでそちらを選ぶことにした。

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12月には高山宏訳『詳註アリス』も発刊されることだし、改めて本編を読み返したいものだ。

と、こうやって「課題図書」ばかり増えていく始末で、積ン読なんていう生易しい言葉では、僕の状況を正確に表すことは出来ないように思う。

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