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日本語教育のころ

日本語教育能力検定試験の願書がようやく発売されたそうだ。

TOEICなどの語学系の試験も含め、人が集まってしまうテストは忌避される流れがあったけれども、特にこの教育能力試験は1年に1回しか実施されないものだから、受験希望者は気が気でなかったのではないか。


日本語教育能力検定試験」という試験(資格)がそもそもマイナーかもしれない。

一般に、日本語教師有資格者としてみなされるためには3つの方法がある。
①大学で日本語教育専攻・副専攻を卒業する 
420時間の養成講座を修了する 
日本語教育能力検定試験に合格する 
の3択で、どれかひとつを満たせば「有資格者」を名乗っていいことになっている。

この基準で言えば、僕はいちおう有資格者ということになる。

②については420時間に相当する大学プログラムを修了し、③は大学3年の時に合格した(①はそもそも大学に日本語教育のカリキュラムがなかった)。

つまり、資格としては大学からもらったもの協会からもらったものとの2つを持っているわけで、我ながらなかなか頑張ったなぁと思う。


ただし、有資格者だからといって即戦力であるはずはもちろんない。

よくある堅実なパターンは、養成講座を420時間修了(②)したうえで試験を突破(③)、それから実践講座などで実力を磨きながら日本語学校で働いてキャリアを積む、というものだと思う。

ぶっちゃけ、養成講座は出席して課題にさえ取り組めばほぼ誰でも修了できるわけで、知識が頭に入っているかというと必ずしもそうでもない。受講しているのは、学生よりもリタイアした人とか、子供が大きくなって時間ができた主婦とかだったりすることが多く、「お勉強」から遠ざかりがちであるという意味も含めて、ただ修了したというだけでは何にもわかっていなかったりするのである。


そこで、知識がきちんと身についているかどうかを試す日本語教育能力検定試験の受験が推奨されているわけだが、資格試験としてはなかなか難関であるとされている。

実施機関であるJEESの発表によると、令和元年度の実受験者は9380人、合格者は2659人であるから、合格率はおよそ28%ということになる。受験者じたいはここ数年増加の一途をたどっているが、合格率はほぼ一定である。


僕が受験したときも、こうしたデータはもちろん目にしていたし、何年も受け続けては落ちている人もあるという話を聞き及び、正直ビビっていた。

受験料1万円は相場的に並程度だけれども、年に1度しかないのがデカい。
一度落ちてしまってはチャンスが来年に持ち越しとなり、もう1年間にわたって勉強し続ける根気があるかというと疑わしいものだったのだ。


だが、実際受けてみたらなんのことはなく、ふつうに一発で合格してしまった。

というのも、専攻こそ国文学ではあったが、当時の僕は日本語教育を中心に大学で勉強していて、英語学のゼミにも顔を出しているくらいだったから、言語学とか第二言語習得とかの知識はだいたい持ち合わせていたのだった。

そのうえで420時間相当のプログラムも終えているわけだから、語弊を恐れずに言えば、一般の、自力で合格を目指している層とは一線を画していたことになる。


受験してみた感じでは、日本語教育に限らず、大学でそれなりに言語学を勉強している学生なら、少し勉強すれば難なく合格することができるのではないかと思う。

たとえば以下のページの試験問題例。

1ページ目の問題4問1にある「コミュニカティブ・アプロ―チ」という用語は、日本語教育や英語教育といった第二言語習得の世界では基本中の基本であろう。

が、逆に言うと言語教育と縁のなかった人にとっては耳馴染みのない言葉なわけで、この試験のために基本用語から全部覚えていくとなると、相当な量の暗記が必要になる。このあたりが、本試験の合格率の低さにつながっているのではないかと思う。

反面、ちゃんと読めば素人にだってわかる問題もけっこうあって、同じリンクの3ページ目の問題9問1は、「日本語教育」の理想を考えれば、偽の選択肢を容易に消すことができるだろう。

たとえるならセンター生物の大問5みたいな感じで、その場で頭を使うことがけっこう要求されるから、試験慣れした学生の方が有利という側面もあると思う。

それから2ページ目にあるリスニング問題、僕はなんてことないと思うのだが、苦手な人はとことん苦戦を強いられるらしい。こればかりは耳を鳴らしていくよりほかにない。



もし万が一、受験予定の方がこれを読んでいるとしたら、徹底的な問題演習をオススメする(もちろん、基本的な講習を修了するなどして全体を習ったうえでの話だ)。

個人的には晶文社の問題集がオススメなのだがここ数年は出版されていないので、アルクでもヒューマンアカデミーでもなんでもいい。とにかく最新版の予想問題集を一通り解いてみて解答・解説を読み込み、解説を参考書代わりにするといいと思う。

特に注意したいのは時事問題。例年、国内の学習者の出身国ランキングとか、おおよその学習者数学習動機ランキングなどはよく出題される(予想問題集にも然るべく出ているはず)。

センター試験なんかよりも出題範囲じたいは狭い気がするから、問題演習の練度がモロに結果として表れるように思う。とにかく僕はそういうやり方で試験を突破した。


参考書を1冊紹介するとすれば、小柳かおる日本語教師のための新しい言語習得概論』はオススメ。日本語教育を念頭に置いて、第一・第二言語習得理論の基本的なところが分かりやすくまとめられている。

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僕など未だに座右に置いて、言語習得を復習したいときに紐解いている。



とか偉そうなことをのたまっておいて、結局はペーパー日本語教師である。証書すらどこにしまったのかわからなくなってしまった。

日本語どころか、同様にかなり頑張っていた国語の教員免許の方も打っ棄っているあたり、生き方としてはどうしようもないなぁと思う。

関係ないけど、今の仕事がいまかなりしんどい状況に陥っていて、端的に言えば辞めたくなっている。
となると現状どうにか僕にできるのは教師か……? と、頭をよぎってはその思い付きを撥ね退けているこの頃である。

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