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イン・ワンダーランド

みんな大好き『不思議の国のアリス』のはなし。

先々週から、森アーツセンターで「特別展アリス」が開催されている。こないだ横浜でもやってたじゃん、とか思ったけど、記録を遡ったらそれは2019年。すでに3年も前のことになってしまった。

前回のアリス展で会場限定販売された図録は非常に充実していて、いまだにちょっと調べたいことがあったりすると書架から取り出して眺めている。それに展示じたいも、かなり時間をかけて楽しんだような記述があったのだけど、当時僕が書いたレポを見ると次のように書いていた。

僕としてはもう少しキャロルのひととなりとか描写の歴史とかを細かく追って欲しい所ではあったが、それでも日本初公開のものを含む貴重な資料を一堂に見ることができて本当に楽しかった。

言われてみると、たしかに目玉資料であるキャロルとかテニエルの原画やスケッチは見ごたえのあるものだったが、制作秘話としての掘り下げはもう少し欲しいと思ったような微かな記憶がよみがえってきた。だからといってダメな展覧会だったということではないけれども、これだけ期間を空けずに開催するからには期待もおのずから高まるというものである。


で、平日の朝イチから赴く。

どうも高層階は苦手だ

冒頭にはキャロルことチャールズ・ラドウィジ・ドジソンの生い立ちが写真と共に語られ、アリス・リデルとの関係や『アリス』執筆にいたる経緯が説明されていく。

この段階では大きな発見はないのだけれども、ドジソンの発想の源になったであろう当時の文化が紹介されているのは興味深かった。ドジソンが持っていたのと同型のカメラや「ハンプティ・ダンプティ」の絵本とか、天球儀とかロンドン万博のからくり絵本とか……。ブツそれ自体はそんなに目を惹くものではなくても、こうした文脈におかれるととたんに重要な意味を持ち始めるわけで、アリスに思い入れの深い人ほどこのコーナーは楽しめたのではないかと思う。

そのあとはひたすらメディア展開についての展示が続いて、シュールレアリスムとかサイケといった文化の視点で整理されているのはよかった。ただ「こういう派生作品があります」だけではいまいち面白くなかっただろう。

それから、映像作品で1コーナーが作られているのも楽しかった。たとえば1903年版と1915年版とで同じ場面を切り取り、2つのスクリーンに同時投影するという試みは単純だが面白い。ただし1915年版の画質があまりに粗かったのは気になった。1903年版はそもそもフィルムの保存状態が悪いから仕方ないのだけど、1915年版は近年修復されたきれいな映像が存在している。なにか権利的な問題があったのだろうか。

また、実写版としては僕が一番好きな1933年版の映像が展示されていないのは残念だった(これこそ著作権上の問題かもしれないが)。やや原作に準拠しすぎるあまり、娯楽作品にしては説教臭いナンセンスを発揮してしまっているので、少し冗長に感じられる部分もあるけれども、あの特殊メイクや衣装の完成度には目を瞠るものがある。YouTubeに本編がアップされてもいるが、字幕が欲しければゲーリークーパーのDVD集『ゲーリー・クーパー 珠玉の傑作集』に収録されているのが一番お買い得に楽しめる手段だと思う。

派生作品やアニメ化として未知のものもたくさん発見でき、思ったより勉強になったことであった。


目玉のひとつかも知れないが、インスタレーションとか近年の舞台版で使用された衣装とかは、正直あまり興味をそそられなかった。インスタレーションについては、やるからには徹底的な造り込みが必要だし、展示スペースと両立させてクオリティの高いものは望むべくもないと考えているためだ。

文句を言いつつ写真は撮る

ただし、この展示に来ているのは僕のような"厄介オタク"ばかりではない。ディズニーアニメ版が好きというだけで興味を持った人もあれば、「アリス」という名前だけ知っているけど話はよく知らないという人もいるだろう。現に、僕が展示を見ているとき、近くにいる若い学生が「アリスって続編(『鏡の国』)あったんだ……」と呟いているのを耳にした。そうしたいわゆるライト層に向けた配慮ということをも加味すると、本展は多方面の人が楽しめる工夫がなされている良い展覧会だったと思う。


で、実は目当てのひとつがショップ。今回の図録はISBN付=書店でも販売されるタイプの本だったのでひとまず保留として、どうしても欲しかったのがこれ。

『詳註アリス』はアリスファンの基礎文献

ジョン・テニエルによるチェシャ猫の挿絵をもとに、そのタッチを3D化したぬいぐるみである。ことアリスについての僕はテニエル原理主義者なので、さしものアーサー・ラッカムであってもやはり一歩及ばないと思っているくらいなのだ。その僕に取ってみればこんなの買うしかないアイテムであり、実際の挿絵よりちょっと丸っこいながらもファンアイテムの企画としては満点だろう。

ほかにも海洋堂のフィギュアも欲しかったりしたけど、こういうのはコンプリート(単価500円なので総額1万3千円くらいか)しなければ意味がないのでパス。クリアファイルとポストカードを数葉購って帰ってきた。

モノクロの方は活版印刷とのことで質感が好い


ちと入場チケットが高いし、行ったのが平日朝イチだったのもあるかもしれないが、会場はかなり空いていた。今後会期終了が迫ると状況は変わるだろうしグッズの売り切れも出るかもしれないので、興味のある向きは早めに赴くことをオススメしたい。

しかし、となりでやっていた水木しげる展も行っとかないとなぁ……。

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