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時代を生きる島と人々

「黙示録/池上永一」

2段構成の633頁。1ヶ月かかると踏んで読み始めたら止まらなかった。読みたいがために仕事を早く切り上げ電車移動の時間を1秒でも長くして差し支えない程度ではあるが就寝時間も繰り下げるほど。ものの4日で読了してしまった。

まずは登場人物たちが魅力に溢れている。傲岸不遜。被害者意識。他者を蹴落とす。貪欲。悔しさ。妬み僻み。完璧主義。自尊心の保持と恐怖のために罵詈雑言を吐き出し、目的のためなら卑怯な手も厭わない者たちはまさに生きる人。道を拓く話にありがちな清廉潔白な人物がいないことがとても爽快である。人間らしくてとても愛おしいのだ。
制度ではなく人の心が差別と迫害を生む常を包み隠さず述べていることも好ましくあり、己にもそれがあることに耳が痛くもある。
人物たちの境遇にふと「王様は島にひとり」の『HD』についての池上永一先生の所感がここに表れていて笑うという大変失敬なことをしたがこれも小説の面白さであろう。鬱屈になるような出来事に気が沈まぬのは視点が客観的であること、池上永一先生のユーモアの成せる技であろう。

琉球王国ならびに琉球古典舞踊の歴史を紐解きをする本作拝読の最中「OKNW.ep/ORANGE RANGE」の楽曲たちに聴き浸りたくなる。「光と影が混ざる時代と共に生きる」沖縄とその人々の壮大さに胸を打つ。
「エバーグリーン」の一節「最低を選んでも最高と思ってこう」は過去の出来事に感情を入れずにそういう事実があったと客観視するようになった了泉の境地が浮かんだ。


琉球古典舞踊だけではない。落語。能。人形浄瑠璃。歌舞伎。文学。先達が「伝える」という形で守ってきたおかげで今日まで継がれ継がれていく。まさに「フイリソシンカ」の一節「永遠を打ち鳴らす」ことに感謝極まりない。

それらに触れている僥倖を噛み締め、もっと触れていきたいと思う作品であった。