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読みきりの短編や、中編・長編の試し読み
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2018年10月の記事一覧

[試し読み]星の子供たち Episode.1 暁

さらさらとした砂ばかりが続く白い大地に、暴力的な太陽の光が照りつける。地表から草木が姿を消して千年、大気が薄くなるにつれ、紫外線は強さを増した。昼間は大人でも防護服なしで外を歩くことができないのだから、十三歳になったばかりの俺が、そう簡単に外へ出ることは適わない。 子供が外に出ることを許されるのは、陽が沈んだ後だけだ。それでも酸素が薄く、昼とは逆に凍えるほど気温の低くなった外に出ていられるのは僅かな時間。限られた時間で食い入るように見つめるのは、宝石を散りばめたような眩い夜

[掌編]珈琲と眼鏡

いつの間にか鼻まで下がっていた眼鏡を外すと、午後の三時を回っていることに気がついた。まだ昼も食べていない、と思った瞬間に喉が渇く。朝からディスプレイを睨んだままで、テキストが眼鏡のレンズに貼りついてしまったんじゃないかと思ったが、もちろんそんなことはなかった。 もう昼はいい。とりあえず珈琲を淹れよう。 珈琲を淹れる動機はそれが飲みたいからではなく、豆を挽きたいからだ。戸棚からミルを取り出し、銅のスプーンで豆を掬う。ハンドルを回してがりがりと豆を挽いているときに漂う珈琲の香