狩野博幸『江戸絵画の不都合な真実』
京都国立博物館で数々の展覧会を企画した美術史家による、江戸絵画の有名人の肖像。岩瀬又兵衛から東洲斎写楽まで、時代を追って8人が取り上げられている。
それぞれ何枚か絵も紹介されてはいるが、画家自身のエピソードが中心である。江戸時代はさまざまな人がさまざまな随筆や日記を残しているため、文献に広く当たれば作家の人物像がくっきりと姿を表す。ろくに資料にも触れずに、好き勝手なことを言う傾向に著者は批判的で、例えば東洲斎写楽が誰なのか、山のように出ている候補は一刀両断している。
所々、口さがない京童、プライドばかり高くてお金のない京都(江戸時代の話)の話が出てくる。例えば、岸駒。地方から出てきて成り上がった岸駒を、嫉妬と蔑みから金に汚い画家だと京童がひどく書き立てる。しかし、岸駒の画料は確かに高かったが、ボロ寺を修繕し、天明の大火で被害を受けた寺院を積極的に支援していたという。怒りに満ちた書きぶりから、著者は京都で何かあったのではないかと勘繰ってしまった。
ちなみに、岸駒が祖となった岸派の絵は京都に今もたくさん残っている。京都御所にも、岸駒の子の岸岱の絵がある。ところが京都検定のテキストを見たら何も言及されていなかった。京童のイケズだろうか…。