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17時ごろから降り始めるみたいよ
夫が言う。
東京近郊が真っ赤に染まった雨降りレーダーを見せつけながら。

17時といえば、平日は保育園に子どもをお迎えに行く時間にあたる。
今日の朝見た天気予報でも言っていた。
15時すぎから雷を伴う大雨の恐れ。

今にも降り出しそうに重く沈み込んだ雲から、ゴロゴロと低い雷鳴がひびき、ついに雨が降りだした。降り出したと思ったら大粒の雨。これは下手したら迎えに行けなくなるくらいの雨と雷になるかもと思い、保育園へ早めのお迎えに変更させてくださいと電話をした。

とにかくはやくでなければと、そのへんにある服を着て、カッパはズボンタイプのもあったが、すぐ手にとれた膝丈までのもので出かけた。

しかし、思ったより早く土砂降りになり、自転車を漕いでいるとまくれあがったレインコートのせいで7部丈のズボンとスニーカーはびしょびしょになった。

まぁびしょびしょになるくらいのことはなんてことはないのだが、雷がこわい。

無事に子どもを保育園からpic upした帰り道、相変わらずの土砂降りとたまに空がピカッと光り低い雷鳴が聞こえた。

電撃後遺症。
若い頃訪問看護で訪問していた、ある小児患者さん。
家族で河原に遊びに出かけて雷に打たれて寝たきりになった。
意識はあるが、言葉は発しない。
体は側わんしてしまい、寝ている体位により、体の圧力で圧迫が加わる部分の皮膚がすぐダメージを受けるわりに、その反対側にすると、また側わんして固まった硬い体の圧迫を受けて皮膚がダメージをうける。

5歳だったその子も、当時訪問に行っていた頃は18歳、お年頃の皮膚はオイリーでよく洗ってあげないと皮膚炎を起こした。ちゃんと歳を重ねて、年齢なりの身体的成長を迎えているのが切ない。
他にも障害はいろいろあった。看護はケアが多くて大変だったし、医療依存度がどうしても高くなってしまう状態の中、ご家族は頑張っていた。

ご両親の気持ちは想像するにあまりある。

土砂降りの中、空が光ると気持ちが縮みあがる。
経験上まだまだ遠くに雷がいることはわかっているのに、とにかく怖い。私は怖がりで心配症なのは承知している。怖がりすぎなのもわかる。だけどもし急に私たち親子に雷が落ちたら、夫はわたしをお迎えに行かせたのを後悔するだろう。
わたしもなぜ、そんなに焦って行ったのか後悔するだろう。もしかしたら何か起こるかもしれない悪夢を思い浮かべながら、心も縮み上がりながら走る。

とにかく光ると怖くて怖くて。
住宅街の中、家に沿って走り、自分達が標的にならないように走る。

ピカッと光る!
怖い怖い。背中をまるめる。
気をつけて、進め進め!

うちが見えてきて、子どもを先に家にいれ、自転車を駐輪場におく。

家に入ると夫が軽く笑って迎えてくれる。カッパから水がしたたり落ちて小さな水たまりをつくっていた。
怖かったーー!と声が出て、ホッとした。
わたしの恐怖には夫はあまり気がついていない。夫からしたら、世間の人からしたらまだまだ落ちる心配のない雷のレベル。だからだろう。

どんなに怖かったかはそれ以上言及していないが、わたしは本当に怖かった。

不運としか言えないことが人生には起こり得ることを知っていて、たまに、その恐怖に苛まれることがある。

それがこんな雷の日。

彼のことをいつも思い出す。



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