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大学生自転車日本一周旅二十二日目:松山駅から南宇和郡愛南町まで

本編

 この日は、どう頑張っても高知の県庁所在地である高知市までは行けないから、もともと野宿の予定だった。目標は宇和島市のさらに南にある南宇和郡愛南町というところ。高知市に一日で行くには四国山地を突っ切る必要があり、全く持って現実味はない。最も高い山は標高2000m近くもある山地である。これを突っ切ったらもはや勇者よ。てか、せっかくの四国なのにがっつり山を越えるのもったいなくね?ということで、出来る限り海沿いを進みつつ目指すことに。

 さあ、まずはパンク修理。しかし、所持現金は約2000円。個人の自転車屋での修理は基本的にクレジットが使えないから、正直大きめのチェーン自転車屋一択。すなわち、サイクルベースあさひ一択と言っても過言ではない。しかも、この自転車は新潟のあさひで買ったやつだし、その意味でもあさひ一択である。

 で、松山駅に最も近いあさひに行こうと思ったんだけど、開店は11時。修理時間を含めると、結局この日の出発は12時前になりそう。そもそもホテルのチェックアウト自体も10時だし時間が有り余る。11時までは、愛媛県庁での記念撮影と松山城前の公園で時間をつぶすことにした。ちなみに愛媛県庁はなかなかに立派で大きかった。県の規模と県庁の見た目は案外比例していない。

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 そして、時間が経ったのであさひへ直行。修理をお願いした。修理を待つ間、道中で見た松山鯛めしの暖簾が頭から離れなかった。だから、調べていると、実は愛媛県は鯛の漁獲量が日本一であり、鯛めしが有名であること、松山と宇和島では鯛めしのスタイルが全然違うことをここにきて知った。どうせ野宿で宿代はかからないし、時間はあるし、もともと宇和島市を通る予定だったし。よし、鯛めしの食べ比べをしてやろう。

 そんな決定が俺の頭の中でなされていることも知らないあさひのスタッフさんが修理を完了してくれ、無事、完璧な状態で本格的な四国一周旅が始まる。その前に、鯛めし鯛めしっ!さっき気になっていた鯛めしの店へ、開店間もないが入店。ここでは、鯛めし御前を注文した。鯛めし、刺身、ご飯、漬物、エビのてんぷら、お吸い物、サラダにお茶漬け用の薬味。豪華すぎる。これで1800円ぐらいだから驚き。鯛めしは、鯛めしと言われてイメージする、そう、今頭の中に浮かべたそれ。鯛の出汁が効いているご飯、ほくほくの鯛の身。最後はお茶漬けで一気にかき込む。うまい!鯛めしの食べ方もメニューの裏に書いてあって良心的だった。最高の旅のスタート。

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 まずは瀬戸内海側に沿って進んでいく。これまでのずーーーーーーーーっとぐずついていた天気とはうって変わって、空は快晴。晴れの日は海が非常にきれいに見える。海の青は空模様に大きく影響を受けるという当たり前のことに気付かされる。日本海側を通った時はほとんど曇りか雨だったし、やっと見ることが出来たきれいな海に、半ば興奮しながら進む。

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 途中、道の駅ふたみシーサイド公園に休憩がてら立ち寄った。そこでは「夕焼けこやけの赤とんぼ」と刻まれている石碑などがあり記念撮影。さらには恋人の聖地の石碑もあり、独り身代表として一人ぼっちで写真を撮って運気下げもしておいた。ちなみに平日ということもあって、カップルの観光客はその石碑近くにはおらず、そんなに劣等感を感じることは無かった。そもそも一人に劣等感を感じること自体おかしいんだけどね!

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 休憩もできたところで再出発。これまでと同じように瀬戸内海側を疾走していく。そして、長浜というところに差し掛かると、今度は海沿いではなく、南下して山(森)と山(森)の間を走り、大洲市へとターゲットを変更。山(森)に挟まれた川に沿って自転車をこいでいった。これも当たり前のことではあるが、これまでの青々とした海とは違い、木々に囲まれた川はきれいな緑色に輝いている。これもまた美しい。

 そんな道を抜け、大洲市の中心部ともさようならをすると、だんだんと山道が始まっていった。四国山地を突っ切っていない以上、登りと言ってもたかが知れているだろうと思っていたけど、この山、舐めたらいけない。強い日差しの中自転車を押して歩く。これがいっちばん体力を削られる。四国はお遍路さんが歩いているという話も四国一周をすると決めた際に知ったのだが、彼らはこんな山道も歩いてくるのかと驚きながら(お前も自転車押して歩いてんだろ)、必死に登り続けた。ついさっきまで海がきれいだとか思っていたのに、気が付けば周りを山に囲まれている。しかも結構な高さ。多分300mぐらいは登っただろう。疲れたし少しづつ陽は落ちていたけど、下りで一気にペースを上げながら宇和島での鯛めしを目指してギアを上げた(ちなみにこの時は自転車は6ギア固定だったけど)。

 日がほとんど落ちきった午後6時。無事宇和島駅付近に到着。軽く調べておいた鯛めしの店に行ってみると、昔からある老舗料理屋の雰囲気があふれ出しており、ただの観光客Aにとっては少し入りにくさもあった。しかも、クレジットが使えるかどうかも不透明。だけど、食べ比べをしようと決めて今日をスタートしたわけだし、と思い切って入店。緊急事態宣言の影響なのか、時間帯が少し早いからなのか満席というわけでもなく、とても入りやすい店であった。

 まずはクレジットが使えるのかの質問。OK!危ない危ない。さあ、宇和島鯛めしをいただこうじゃないか。松山での鯛めしとは、事前に調べていた通りやはり全然違う。この店では鯛の刺身、わかめ、卵、出し、ノリ等の具材を先に混ぜて、それを白ご飯にかけて食べるスタイル。全然違うんだけど、こっちも非常においしい。松山と宇和島、別の料理と言っても過言ではない。同じ料理名なのに。文化って面白い。ご飯をしっかりとお替りしてお腹を満たした後、さあ、寝床を探しに行こうか。

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 なんとなく寝床になりそうな公園に目はつけていたものの、実際に寝ることが出来るかどうかは行ってみないと分からない。目指すは愛南町。宇和島から40~45㎞。昨日の今治から松山までと同じくらい。だけど、昨日とは違うのは、焦る必要がないこと。昨日のパンクの原因は飛ばし過ぎ、とかいうまったくもって論理的ではない仮説を立てていたし、夜はそもそも危ないというのもあってゆっくり進んでいくことにした。道のり自体も最初は山道だったし、焦って疲れてもしょうがない。じっくり行こう。

 すると、一時間もたたないうちに、空が非常にきれいだということに気が付いた。満天の星空。昼間快晴だったこともあって、自然のプラネタリウムになっていた。運河と思われるものさえ見える。いま世界でこんなきれいな景色を見ることが出来ているのはたった一人かもしれない。そう思いながら写真をパシャリ。もちろん星は写真になんか写ってくれない。この景色をこの瞬間だけで、この目で終わらせてしまうことの勿体なさを感じつつも、写らないものは仕方がないから目に焼き付ける。

 自転車を漕いでいる最中も、そのきれいな星空はずっと視界に入っていた。一人の夜は寂しくしんどいが、この空を見るとそんな苦しみすべてが無に帰す、そんな美しさ。これまで二十二日分の苦労も重なり、より特別なものへとこの景色が昇華されていく。やはりどうしてもと思ってしまい、二度目の撮影チャレンジ。もちろん安全が確保されているガードレール付きの歩道の上で。今度こそ撮影に成功したい。

 本当だったらちゃんとしたカメラと三脚を用意し、周囲からの光もおそらく遮断しなければいけないが、星を撮りに来たわけでは無いし、そんなものは準備できない。今ある道具で何とかするしかない。スマホに星撮影用アプリ(そんなのも今はあるんだね)を3つほどインストールし、自転車のサドルにおいて撮影することでぶれないようにした。また、時折通る車のヘッドライトによる影響を最小限にするために自分の体で出来る限りスマホの周りを覆った。

 結局、急造の撮影環境であったために満足のいく写真を撮ることはできなかったが、一応撮影には成功。

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 夜の自転車は危険だし、海や山と言った景色、その土地独自の食事や人などとは触れ合うことはできないが、こんな素敵なプレゼントをもらうことが出来る可能性も。夜に自転車を観光目的で漕いでいる人は見たことがないけど、おすすめせざるを得ない景色。また、他にこんなことをしている人もいないだろうからこその独占感も、ある種の心地よさを生み出していた。

 さて、撮影も終われば、移動再開。海沿いの道はアップダウンが激しく疲れて結構押した。なかなかたどり着かず、道自体もずっと同じ感じを繰り返すから、ループする世界に迷い込んだのか、とありもしないことを想像して進んだりもした。蜘蛛の巣に幾度となく絡まりつつ、何とか目的地の愛南町へ。

 目を付けておいたスポーツ公園みたいなところで何とか寝床が見つかった。周りは雑草が生えまくっている中にポツンとあるベンチだったが、車のライトや人通りは避けられ最低限の寝床としての環境は整っていた。トイレの手洗い場では、ゴキちゃんともこんばんは。トイレ中に寄ってこなければ問題は無し。

 この日は陸・空・海、さらには食事と大満足過ぎる一日(しかも全部自然が作り出したもの!)で興奮冷めやらず、ベンチに寝っ転がりながら友達と電話をしていた。そのときずっと空を見上げていたら、何度も流れ星が流れていった。これまでの人生で流れ星を見たことがあるか定かではないが、ここでこんなにも見ることが出来るとは思っていなかった。貴重な経験が出来た一日だった。もちろん、願い事は全くできなかったけどね。では、おやすみ。

 ちなみに、パンクしてなかったら、愛媛が鯛めしで有名だということも知らず、一度も鯛めしを食べずに愛南町まで来ていた。やっぱり、パンクは何か持ってるのよ。

 朝方4時ぐらいに何度か目が覚めたんだけど、その時間帯はちょうどオリオン座が斜め上で輝いていて、枕で頭が少し斜めに傾いてずれた視線とマッチしていた。

ルート

 松山市から伊予市の先まで国道56号線を走り、分岐点で国道378号線に乗り換え海沿いへ。長浜まで行くと県道24号線に折れ、大洲市へ。大洲市内で国道56号線に戻り、宇和島駅まで行った後、そのまま南宇和郡愛南町の役場近くの公園へ。そこで野宿。


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