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小田晃生 New Album 『いとま』全曲解説&インタビュー【vol.3】

歌モノのオリジナル・アルバムとしては、6年ぶりのリリースだった前作『ほうれんそう』から、およそ1年ちょっと。小田にしては意外なスピード感で届いた新アルバム『いとま』。
フォーキーでドメスティックな空気感と、練り込まれた言葉たちーーーこれまでの持ち味を存分に発揮しつつも、より深いところへ引きずり込まれるような凄みが漂う快作だった!
アルバムや楽曲に込めた想いと、今ミュージシャンとして感じていること、未来のことなど、じっくりと語ってもらった。

インタビュー:皆野九

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⑤「しゃっくり!」 〜可笑しい!かわいい!カッコいい!敢えて投げ込む「チグハグ」要素


ーーさあ、5曲目ですが、急展開きましたね。

小田:急ですよね。また「チグハグ」要素を入れてしまいました。人を選ぶよなあ、とは思いつつ(笑)。

ーーでもこの曲楽しくてめちゃくちゃ好きですよ。ストーリー性がしっかりある歌詞ですね。実話ですか?

小田:僕自身の実話です。すごい具体的に言うと、もう何年も前ですけど、イラストレーターのBoojilちゃんが原作の「おかっぱちゃん旅に出る」っていう本をアニメ化しましょうという企画に関わらせてもらったことがあって、そのときの打ち上げの出来事が歌詞の1番です。

ーーなるほど、それが「大きめの仕事のご褒美」ってことですね。

小田:NHKの映像コンテンツの人気勝ち抜きバトル番組に参戦した作品だったんすけど、見事にそのシーズンで優勝して、追加エピソードもつくって、全話NHKで放映されて、という素敵な結果になったお仕事でした。制作中も、行く末を見守るのも楽しかったですね。

ーーちなみにどんな内容だったんですか?

小田:元の本が旅エッセイなんですけど、Boojilちゃんご本人が色んな国へのひとり旅したときの体験を元にした、コミカルで可愛らしいショートアニメです。監督はCOINNの「ATTA」でミュージックビデオを撮ってくれた田中のぞみちゃんで、僕は音楽担当でメインテーマといくつかの曲を作らせてもらったのと、あとは声の出演で、旅先で出会う各国の人々の役を担当しました。僕が出せる声のバリエーション全部出した感じで、これが面白かったですね。

ーーそれは貴重ですね(笑)。今はもう観れないんですか?

小田:残念ながらそうなんです。仕方ないんでしょうけどね。いつかもしソフト化とかするなら僕も観たいです。と、そんなわけで、Boojilちゃんは特にメキシコに縁が深くて、「打ち上げはメキシコ料理にしよう!」となったんですね。たぶんそうだったと思います。

ーー歌詞の2番の「ムーミン」とか「プーさん」の部分も謎なのですが、これは?

小田:ここは、僕が「とっておきのオモシロ話を披露しようとしてる」という設定ですけど、ホントにあるんですよ。ウチの奥さんがやらかした「ムーミン登校」最高の勘違いエピソードが(笑)。それが細切れになってるというネタです。「ムーミン登校」は、Twitterとかnoteで書いてるので、知ってる人は「あの話しだ!」とピンと来るかなあと。信号を送ってみました(笑)

ーーなるほど(笑)。そういう仕掛けだったんですね。知りたいので調べます。

小田:ぜひぜひ。ついでにリツイートしてください(笑)。バズればいいのに、と思ったんですけど、なりませんでしたね。

(以下のツイートでした↓)

ーーあと、曲の中で随所で聞こえる「ヒック!」の音は、楽器ですか?

小田:あれはですね、声と重ねてますけど、赤ちゃん用の玩具楽器の音ですね。正式名称が分からない、「ブーブー笛」かな?吹くと「プギュ~」みたいな音がするやつです。あと、ウチの息子と娘にも「ヒック!」だけやってもらいました。

ーーアルバム全体の中で、この曲の立ち位置がかなり独特で光っていますね。内容もですけど、サウンド的にも。カッコよさと可愛らしさもミックスされて。

小田:嬉しいです。雰囲気はどうしてもはみ出すので、収録するか迷ったんですけど、いろいろ考えてみて、このアルバムのバランスの中にやっぱり敢えて投げ込みたいなと思いました。「コロナ」とか「パンデミック」とか、そういう言葉が歌詞になった曲も少しずつリリースされてる中、僕は全く別角度から歌詞に「コロナ」を使ってみたので、せっかくだし、今がいいかなと(笑)。

ーー確かに(笑)。意味合いが全然違うけど、今は「音」として入ってくるだけで反応していまいます。

小田:ただちょっとした単語でも、時事が宿ることってありますね。



⑥「魔法使い」 〜「らしさ」への問題提起と、込められた願い


ーー軽やかで可愛らしくて、だけどほろ苦い、親目線の歌でした。小田さんには2人のお子さんがいらっしゃいますけど、この歌詞で歌われてる「魔法使い」は、どちらかのお子さんなんですか?

小田:どちらというわけじゃなく、どっちもですね。今は6歳の娘の方がリアルにこういう遊びを一緒にしますけど、12歳になる息子も、昔はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で買ったハリーポッターの杖で何か魔法かけにきてましたね。娘は、最近は何かチラシを丸めた棒つくって攻撃してきます。子どもって、みんな「お気に入りの棒」ありますよね。僕もありましたけど。

ーーご自身を「魔法使い」に投影しているわけではないんですね。

小田:あくまで「魔法使い」なのは彼ら、というか、「魔法使い」はこの歌の中で歌われる気持ちのきっかけというか象徴みたいなもので、メインテーマは、「何かに全力でなりきったり、見えないものを見て遊べることへの憧れや羨望」みたいな歌です。

ーーこの曲は特にエッセイっぽさがありますね。アルバムの特色を濃く示してる1曲だと思いました。

小田:言葉をあまり整理整頓し過ぎない感じで曲にできたのは、やっぱり大きいかもしれません。

ーー「子どもたちがうらやましい」って、たぶん、みんなどこかで感じたことはあると思うんですけど、こういう言及の仕方は珍しいですよね。曲としてはそこから「信じる」ことの力と大事さの話しに発展しますね。

小田:ありがとうございます。加えて、「親という役割の呪い」みたいな歌でもあります。自分もたまに「親らしさ」に囚われたような言動をしちゃうときがある気はしていて、なんだかそれがちょっと空恐ろしい気持ちになるんです。その「らしさ」は、たぶん自分がどんなふうに育てられたかも強く影響してるはずなので。

ーー前作の収録曲「当たり前」にも通ずるものがある気がします。

小田:そうですね、「当たり前」は夫婦間が起点の歌ですけど、結局は自分も含めた人間の「固定観念」とか「思い込み」の話しでもあるので、繋がってます。僕は長男で、実家が田舎の世襲制が強いお寺だったのもあって、音楽やってることをあまり本気で受け止めてもらえてなかったのが悔しいし、悲しかったんです。「そのうち飽きるでしょ」とか「修行したくないだけでしょ」とか言われたりもして。

ーーなんと……。ちなみにご兄弟とかは?

小田:妹ふたりいるんですけど、僕が長男でして……。だけど、親や祖父母の立場になれば、そりゃシンプルに心配もあったんだろうとは思うし、結果的には存分に泳がせてもらったので今があるんだとも思いますけどね。だから、ウチの子たちに普段「転ぶなよ」とか「勝手に遊びに行くなよ」とか、声を掛けたりするとき、「あ、やばい!親になった!」と思うんです(笑)。これから、どんなことをする人間になるのか分からないけど、泳がしてやりたいもんだなあと思います。せっかくね、今の我が家はなんにも縛りの無い家なので。

ーーある種、自分への問題提起的な曲なんですかね。

小田:そうですね、問題提起。僕の中にも「ごちゃごちゃうっせぇ大人」は、ちゃんと居るんだって、自覚をするための歌でもありますね。いつか自分を省みるきっかけになるかもしれないし、「父ちゃんこんなこと言ってたじゃんか!」って子どもらにツッコまれる原因になるかもなと(笑)。
だけど昔に比べると、今は大人が頑張って大人ぶらなくてもよくなってきてる感じもしてて、そこは心地良いなと思います。

ーーこれまでの男性的な社会への見直しが進むと同時に、大人そのものの「らしさ」も、変わってきてる気がします。

小田:「威厳」とか「大黒柱」とか、あんまり聞かないですもんね。下の名前で呼び合う親子を見かけることもありますし。とはいえ、礼儀が無いのは良くないなと僕は思っちゃいます。大事な話しはちゃんと聞いて欲しいし、「尊敬」されなくていいから、「尊重」はして欲しいなと思います。その上で、今後の進み方に程よく口出しもさせてもらいたいなと。

ーーもし「音楽やりたい」って言い出したらどうしますか?

小田:えー(笑)。なんか僕よりうまくやりそうで嫌だなあ。ライバルにするくらいなら取り込みたいですね。とりあえず組もうぜ、と提案してみます。



⑦「本になる人」 〜 「売れたい」の正体と、ビターな「夢」の歌


ーーこの曲には、前作の表題曲「ほうれんそう」を彷彿とした人も多いかもしれませんね。

小田:ちょっと続き感ありますね。実際まだそんなに間を空けずにつくったからなのもありますけど。自分の中で昔から頭にあった「売れたい」とは、どういうことなんだろう?ってことを、じっくり考えてみた曲、かな?と。

ーー「ほうれんそう」の一歩先の話しな感じですね。

小田:ただ、つくったときはそこまで自己分析できてませんでしたね。アルバムリリース直前くらいにウチの奥さんから「小田くんはなんで売れたいの?」って聞かれまして、しどろもどろになりました。音楽やってて「売れたい」って思うのは、自分の中で当然になり過ぎて、言葉が出なくなっちゃったんですね。情けなくて、すごくすごく落ち込んで。でも考えてみたら、もう自分でこの曲に書いてたことだったかもな、と。

ーーなるほど。歌詞にもなってますが、敢えてここで言葉で語り直していただくなら、小田さんの中の「売れたい」の正体は何だと思いましたか?

小田:僕にとっては、「売れたい」≒「関わりたい」ということなんじゃないのかな?と思ったんです。金銭面の話しはちょっと置いときますね。それは今も変わらず大問題なので(笑)。なんとなく、昔の僕の「売れたい」っていう理由はもっと漠然としてた気がしたんです。音楽やるならそうしなくちゃいけないと思ってたようなフシもあって。なんせ、みんな「売れた」「売れない」の二元論ばっかりでしたからね。

ーー確かに、なんとなく世間一般的にも音楽の目標は「売れる」というのが共通話題な気がしてしまいますよね。

小田:あと僕の場合は、さっき話したように寺の跡継ぎ問題もあったので、実家や地元に「立派に音楽やってるんです!」って思わせないといけないな、とか、そんな使命感もごちゃまぜになっている状態がずっと続いてました。

ーー「あ、違うかも」って感じた瞬間というか、価値観が変化するタイミングがあったのですか?

小田:うーんと、徐々にですね。やっている間にホントに色んな価値観やスタンスで音楽やる人にも出会ったことも影響あります。あとは、2013年頃に父が亡くなったときに、実家とお寺の問題からついに切り離されて自由にさせてもらったのも大きいです。そしたら、気が付けば音楽の発信の仕方もめちゃくちゃ幅広くなって、音楽のあり方も随分様変わりして。たぶん、いろいろとシフトできる材料はあったのに、そもそも漠然としてた「売れたい」は、とっくに中身がスカスカで、その気持ちを捨てられなくなっちゃってたんだと思います。

ーーそう気付くに至ったのは、『ほうれんそう』(2020年)のリリース後であることも関係しましたか?

小田:そうですね。やっぱり思うようには作品が広まらなくて、悔しくて「またこうなっちゃったか」とか考えちゃって。何度もそれは味わってますけど、落胆はしますね、ズーンと。だけど、たくさん励まされる感想や言葉ももらって、「じゃあ売れてどうなりたいんだろう?」ということは、やっぱりぼんやりとでも考えてました。有名人になりてえな、大金持ちになりてえな、とあまり真剣には思いません。なってみないとわかんないですけどね(笑)。いろいろ取っ払って、ホントに感じることは「関わりたい」だなと思いました。

ーーそうですね(笑)。ちなみに、小田さんの思う「関わりたい」は、具体的に言うとどんなことですか?

小田:まず、だいぶデカイ話しになっちゃいますけど、「音楽」という文化に対して、もっと何か残せるものは無いものか、と思います。自分の曲が教科書に載るのが夢ですね。

ーーデカイですね!音楽のですか?

小田:そうです(笑)。「教材になりうる音楽」って良いよなあ、って思います。「役立つ音楽」とでもいいましょうか。中学生のとき、井上陽水の「少年時代」が教科書に載ってたのが、なんだかずっと心に残ってます。なんだろう、そんな昔からうらやましかったのかなあ。

ーーこの春に、くるりの「ばらの花」や、フジファブリックの「若者のすべて」が教科書に掲載されるのが話題になりましたね。

小田:ものすごいうらやましいです(笑)。ただ、どちらも素晴らしいし、重要な曲だと思いつつ、ちょっと目配せ的な感じもしてしまいますけどね。これは僕の醜い心のせいですね。

ーーどんなふうに選定されてるのかは気になりますよね。

小田:嫉妬の話しになっちゃってすみません(笑)。「関わりたい」のことに戻ると、いつか「音楽」という文化を振り返ったときに、今の自分はほんとちょっとも名前の出ない存在なのが、なんか絶望的だなと、そんな気持ちになるんです。だから、社会的に見て「教材になりうる音楽」って、夢があるなと思いますね。価値を認められたというか。うーん、あとは、やっぱり自分のやってることで、もっといろんな場所で、いろんな国で歌ったりしたいです。自分で歌うだけじゃない曲づくりもしてみたいし、大きな音出してみたいし、いろんなお客さんに会いたい。

ーーすごくシンプルな願いですけど、それは確かに「関わりたい」ですね。

小田:そのために「売れたい」なんだと思います。たくさんの数を相手にできる人になれるかどうか、ですね。今はまだ、「好きで勝手にやってるだけの人」と言われても、何も言い返せない。音楽の世界に必要な人間じゃない。それが悔しいなと思います。もっと自分に価値や説得力が欲しいです。

ーー歌の中の、「物語る価値のある人生」という歌詞が痛烈で印象的でした。

小田:その部分については、「分かる!」という人も「そんなこと歌うなよ」とか、色んな反応もらいました。自分という存在が全く無価値だ、とまでは思いませんけど、ここで言う「価値」は、広くてでっかい外の世界側から見ての話しなので、曲全体で言いたいことを捉えてもらえば、ちょっとした愚痴やボヤきのような歌なんですけどね。でも、思っちゃいますね、このままは嫌だって。こういう気持ちを自分の中でグルグルさせてるのは不健全だなと思ったので、曲に残せて良かったです。

ーーそれは、ちょっと自己セラピー的でもあるんですかね。

小田:そう思います。僕もずっと落ち込んでるのが好きなわけじゃないので、元気に越したこと無いです。でも、「空元気」ってツラいし、いつかガクッとくるものだと思うので。迷って悩んでることを正直に知ってもらいながら、自分も前に動き出す回転を生み出せてる実感があります。ちゃんと落ち込めたから、次に行けるのかなと。さっきも言いましたけど、いつまでも「自分事」ばっかりなのもカッコ悪いですからね。

ーーでも、実は普遍的なテーマでもあると思うので、代弁してもらえたような、気持ちが楽になるような感じもしました。あんまり、フレッシュじゃない言い方になっちゃいますけど、「癒やし」があると思いました。

小田:ありがとうございます。それは素直に嬉しいです。ネガティブに寄り添った曲ですけど、同時に「じゃあどうなりたい?」と考えてみて初めて、これから何にロマンを感じるかを思い浮かべられた気がしてて、そういう意味では、ビターテイストだけど「夢についての歌」でもあると思います。

ーー「本になる」可能性は、まだまだありますからね。

小田:まあ、最初に脇に置いといてしまった金銭面の問題とか、最低限の暮らしをなんとかしなくちゃいけないですけどね。あと、最後に「こじつけ」ですけど、この曲をつくりながら思い出してた作品ありました。「世にも奇妙な物語」の1エピソードなんですけど。

ーーお、映画じゃないんですね。いっぱいエピソードありそうですけど。

小田:わりと最近……?といっても結構前かと思いますけど、山崎努さんが主人公を演じたお話しで、売れない作家役なんです。原作は筒井康隆さんだった気が。(調べた結果、2007年放送「自殺悲願」と判明)

ーーこれはたぶんすぐには観れない人も多いと思うので、よかったらさらっとお話しも紹介してもらえますか?

小田:主人公は、年老いて、作品も鳴かず飛ばずで追い詰められてて、ある日「文豪はみんな死んでベストセラーになった……よし、死のう!」と思い付いて、一生懸命、色んな方法で自殺を図るんです。でも、何をやっても失敗する上に色んな迷惑をかけまくる。で、最後はその自殺の失敗を繰り返したこと自体を本に書いて大ヒットしちゃう、というお話しです。

ーーなるほど、「本になる人」ですね(笑)

小田:でも、このエピソードの本当のオチはこのあとなんですけど、それだけ伏せとこうかなと。先がよめちゃうかもしれませんけど。観れる人はぜひ観て欲しいですね。コミカルなお話しだったはずなんですけど、必死で自分の人生に「価値」を生み出そうもがく姿は、なんだか可笑しくも、こんなに哀しかったんだなと、この曲書きながら思い出していました。ということで、「こじつけ」のコーナーでした。



⑧「そして」 〜 流れ去ってしまう「今」と「いとま」への想い


ーー1曲目「そしれ」との結び付きについて先に語っていただいてましたが、さらにお話し聞かせて下さい。

小田:ぜひぜひ。

ーーアルバムのリリース前、YouTube経由でこのアルバムの「試聴会」を開いてましたが、その段階では、この8曲目を収録するかを迷われていたと伺いました。

小田:はい、この曲は後出しで思い付いたのもあって、「蛇足かな?」という気もしていて。あ、ここで言う「試聴会」というのは、アルバムの仮ミックスを動画化したものYouTubeの「プレミア」という試写会みたいな機能を使って事前公開した企画です。リンクに入ってきてもらえれば誰でも聴けるようにしました。で、僕がアルバムについて気になってるポイントを質問事項にして、皆さんに答えてもらうことで、最後のブラッシュアップがしたいなと。あとはコミュニケーションになればって感じでした。で、そのアンケートの中に、「8曲目、あったほうが良いと思いますか?」みたいな質問も入れたんです。

ーーその結果を受けて収録した感じですか?

小田:実は、アンケート結果で言うと「一回聴いただけじゃわからん」が1位でした(笑)。まあ、そりゃそうだなと思って、最後は自分で判断しました。とりあえずネガティブな意見は無かったので、入れてみようかなと。

ーーこの曲の動機は先にお話ししてもらった通りとして、最終判断のとき、決め手や基準になったのはなんですか?

小田:まず、「本になる人」で終わるアルバム、聴いた感じだけで思うと、なんか「救いが無い」というか、放り出されたような気持ちになりそうだなと思ったんです。もうちょっと、後味なるものがあるとやっぱりいいなと。全体の曲順としてはしっくり来てたので、そこは守りつつ。

ーー「本になる人」は、たしかにあのポジションが固そうですよね。ちなみにですが、曲順はどんなタイミングで決めてるんですか?

小田:作品によってマチマチですけど、僕のソロに関してはけっこう早い段階かもです。今回は、曲順で並べながら歌詞を推敲してたくらいなのでだいぶ早めでしたね。

ーーこの曲にだけ歌詞に、アルバムタイトルの「いとま」という言葉が入ってますけど、これは歌詞とタイトルどちらが先だったんでしょう?

小田:これは、アルバムタイトルの方が先でしたね。本当は曲名も「いとま」にしようかとも思いましたけど、ちょっとこじつけ度合いが強過ぎるかなと思ったのと、1曲目の「そしれ」で、たまたま続きを予見させるような歌詞を書いてたので、そこをしっかり結びつけたほうが、面白いかなと。

ーーなるほど。メロディーとコード、あと歌詞の一部で「つくる」を踏襲していますよね。

小田:そうですね。ほんとにお風呂場で考えながら組み立てたので、あまり熟考出来てませんけども。
このアルバムを聴いてる人は、リリース日からすぐと決まったわけじゃないし、数年、数十年先にふと聴いてしまう人もいるかもしれない。そうであって欲しくて、そんな願いを込めたくて、当てはまる歌詞を引用して、そこから始めようと思ったんですね。

ーーそれが「つくる」の、あの一部だったんですね。

小田:はい、「ここでは無い何処か」のくだりですね。僕にとっての「音楽のロマン」についての部分だと思います。そして、いつか僕が消滅しても作品が生きるかもしれないという。まあ、その為にはやっぱりもっと売れなきゃという問題がありますけどね。とりあえず、「つくる」がベースになってるのは、それが理由です。あとは、「そしれ」の一部も引用しつつ、今、時間を掴み取って、この身体と脳みそができることを、どんどんやらねば、という歌のつもりです。

ーー思ったよりポジティブなメッセージなのが意外ですね(笑)。

小田:そうなんですよ(笑)。あとすごい現実的な話し、自分が作品は小さくとも一応の財産なので、できるだけたくさんの曲を残しておけたら、いつか家族の助けになるかな、なんてことも考えてますよ。まだ具体的に何かしてるわけじゃないけど、とにかく「いっぱいつくって出しとくべき!」という気持ちが強くなりました。他のインディーのミュージシャン達は、自分の作品が財産として残ることとか、どう考えたり、実際に備えたりしてるのかなあ。今度、誰かと話してみたいな。

ーーそれはたしかに「遠い話し」と笑って切り捨てられないですね。昔ほどはJASRACなどの管理会社に加入することが絶対じゃなくなってきてますし。

小田:音源の自己管理って、有って無いようなものなので(笑)。なんとかせねばなあと思ってるところです。

ーー最後にひとつ。noteにアルバムの歌詞を公開してますけど、この「そして」だけ未掲載ですが、これは何か理由があるんでしょうか?

小田:これも、このアルバムに付き合ってくれた人にこそ、耳を使って読み解こうとしてもらいたかったから、ですね。丁寧にいろいろ用意されてないからこそ、気になるし考えてもらえるかなと。一歩踏み込んでくれた人達の為の1曲になればと思ったからです。だから、やっぱり「なんで?」って思ってもらいたいだけです(笑)

ーー今このインタビューを読んでくれてる人も、「一歩踏み込んでくれた人達」ですよね。

小田:そうですね、1~2曲さらっと聴いた人とは全然違う解像度で聴いてもらえてるんじゃないかなと。そういう皆さんとの関係性で成り立つ1曲になっていたらいいな、と思いました。そんなこと試したこと無いので、確信があったわけじゃないですけどね。皆さんの感想も聞きたいです。


→続き〈vol.4〉
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小田晃生「いとま」
2022/04/14
TORCH-007

《収録曲》
1. そしれ
2. つくる
3. 灰色
4. 名無し
5. しゃっくり!
6. 魔法使い
7. 本になる人
8. そしれ

カバーアートデザイン:木下ようすけ
歌詞英訳協力:Fumiko

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