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『イワナの怪』聖地探訪_仮説編

『まんが日本昔ばなし』に、『イワナの怪』という話がある。ネットミームにもなっているようで、「やめなされやめなされ」「根流し」というような言葉を聞けば、「あれのことか…!」と思い出す方もいるのではないだろうか。
本記事では、『イワナの怪』の元ネタについて考えるとともに、各地において元ネタがどのように分布しているかを、必要に応じて現地に足を運んで調査した。なお、現状調査範囲が非常に狭くデータも少ないため、今後時間があればアップデートしていきたい。
元ネタについて興味の無い方は目次をご覧いただき、「聖地探訪」の項まで飛ばしていただきたい。


『イワナの怪』あらすじ

ある川で、木こりたちが根流しを行ってイワナを獲ろうとしていた。根流しとは「根」と呼ばれる一種の神経毒を作り、これを川に流すことで魚を仮死状態にさせて大量に獲る漁法である。
葉っぱや根っこを煮て「根」を作っていた木こりたちの前に突如僧侶が現れ、「根流しをすると小魚まで死んでしまう。むごい殺生はやめなされ」というようなことを説いた。木こりたちは謎の僧侶を気味悪がり、なんとかこの場をやり過ごすことにした。すなわち、持っていた団子を僧侶に振る舞い、僧侶の説教に同意するフリをしたのだ。僧侶はこれに満足したのか去っていった。
翌日、木こりたちは根流しを始めた。川に「根」を流し、大量のイワナを獲る木こりたち。獲れたものの中には巨大なイワナもあり、彼らは有頂天になる。
イワナの腹を割いていると、件の巨大なイワナの腹から団子がこぼれ出てきた。ここにきて彼らは、昨日の僧侶の正体がイワナだったことに気付くのであった。


『イワナの怪』元ネタ

少し調べてわかったことだが、『イワナの怪』は「魚王行乞譚」というものだという。耳馴染みのない言葉だ。この言葉をいくつかのパーツに分けると、下記のようになりそうだ。

魚王:大きな魚、ヌシなど
行乞:僧侶などが食べ物を恵んでもらうこと
譚:物語


少しわかりやすくなった。なるほど『イワナの怪』のストーリーと一致している。この手の話で「譚」と聞くと、「貴種流離譚」という言葉が思い浮かぶ方もいるだろう。「貴種流離譚」は物語におけるパターンの一つで、「特別な出自を持つ主人公が、何らかの理由で故郷を追われて流浪し、最後にその高貴さや力を認められて復権する」という物語の構造を指す。例を挙げると、光源氏、かぐや姫、桃太郎などがこれに当たるとされる。「魚王行乞譚」はメジャーな言葉ではないが、どうやら物語のパターンを指す言葉のようであり、これは「貴種流離譚」と共通している。これは、「魚王行乞譚」という馴染みのない言葉を咀嚼する上での助けとなるだろう。


聖地探訪

『イワナの怪』の元ネタである『魚王行乞譚』を調べるうちに、私はふと興味を抱いた。
「この話、日本中にあるんじゃないか?」
そう思い至った後は、旅行に行った際に現地の図書館・資料館などで民話等を調べるようにした。

ところで、イワナの怪の舞台となっているのは南会津、つまり福島県であるが、私は福島を訪れたことがない。調査を進めるにあたり、「『イワナの怪』という話が存在しているのは確定しているんだし、どうせなら他の地域を調べたいな…」という考えに基づいての判断だったが、聖地巡礼として、いつか行ってみたい。


魚王行乞譚の有無

今のところ調査範囲は京都を西端とし、それ以外の地域をちらほら調べている、といった状態である。日本を大まかに東西で分け、東側をメインで調べていると言い換えても良い。『イワナの怪』の舞台が福島なため、比較的近い地域を調べたいと思ったのが理由だが、ゆくゆくは西側も調べてみたい。

なお、実際に行ったのは岩手、山形、山梨、岐阜、滋賀、京都のみである。実際に赴いてはいないが、近隣の資料館に行った際に宮城の資料も確認した。まだまだ数は少ないが、京都を西端とした約25の都道府県のうち7つを調べたと考えると、少し多く思えてこないこともない気がする。もちろん実際に赴いたのはその都道府県の一地方にすぎないため、調査は全く足りていないというのが実情である。
調査結果は以下の通り。

岩手:見つからず
宮城:あり
山形:見つからず
山梨:あり
岐阜:あり
滋賀:見つからず
京都:見つからず


バリエーション

魚王行乞譚は、地域によっていくつかのバリエーションが見られた。

タイトル

  • 「〇〇沢」「〇〇淵」「〇〇渕」など水に関する場所の名前になっている

  • 「鰻」「鯰」など、魚の名前が入っている

  • 「主」「坊主」のように、「魚王」(『イワナの怪』でいうイワナかつ僧侶)を指す言葉が入っている

魚の種類

  • イワナ

魚が化けたもの

  • 僧侶

  • 若い娘

魚に食べさせたもの

  • 団子

  • おにぎり

  • 赤飯

また、そのものずばり「魚王行乞譚」というタイトルの話は見つからなかった。先に挙げた例でいえば「貴種流離譚」というタイトルの話が(おそらく)存在しないのと同じで、あくまで話のカテゴリー名ということなのだろう。大きな魚を指して「魚王」と呼称するのは現代では行わない表現だが、どこから来ているのか気になる。

仮説

データがごく少数である現時点で行うのは適切ではないと思われるが、本記事の落としどころが欲しいため、無理やり仮説を立ててみる。

  • 太平洋側に多く伝わっており、日本海側では少ないのではないか

  • 西日本では、別の形の話として伝わっているのではないか

終わりに

仮説を立てる段階で再認識したのだが、データがあまりにも少ない。しかし今から全国各地を巡るわけにもいかないので、できる範囲で色々と調べてデータを集めてみようと思う。

読んでいただき、ありがとうございました。調査編にご期待ください。

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