漫画感想?【カムイ伝】思春期に出会わなくて良かったキャラランキング
カムイ伝という作品を先日読み終えた。
忍者漫画などで有名な白土三平作品の一つで、言わずと知れた超名作である。
感想を書きたいと思ったのだが、名作であると同時に重厚な大作でもあるので全編についての感想をホイホイ書けるものではない。
そこで、まずはできるだけ軽いノリで感想を書こうと思い、「これ思春期に出会ってたら性癖歪んでたな…」と思わされたキャラランキングを作成するに至った。好きなキャラ、推しキャラランキングと言い換えても良いかもしれない。
個人的な偏見だが、こういった概念に親しみのある世代は白土三平作品には馴染みがない方が多いだろうし、逆に白土三平作品がお好きな方が多い世代は、性癖だの推しキャラだのの概念はあまりお馴染みではないだろう。
誰も得しない記事になってしまった。
ネタバレを大いに含むため、これから読む予定の方はご注意いただきたい。
なお、著作権の観点から各キャラの画像は使用しておらず、代わりに数ページ試し読みができるサイトのURLをご紹介している。
こちらはアフィリエイトリンクなどではないので、安心してご覧いただきたい。
第5位:ゴン
百姓サイドの主人公である正助の仲間。力持ちなタフガイ。
アケミという美人と相思相愛だったが家の都合で結ばれることができず、そうこうするうちにアケミはいけすかない男と結婚してしまった。
最終盤では一揆の後に首謀者の一人として拷問を受けるが、拷問道具を破壊した末に熱い鉛を飲み干して死亡するという壮絶な最期を遂げる。
彼の強さと優しさ、それと対照的な報われない部分は、多感な時期に出会っていたら性癖を歪められていただろう。
上記試し読み1ページ目のイラストのうち、右のあたりにいる「權」と書かれた服を着ているのが若き日のゴンである。
第4位:シブタレ
百姓の情報を武士サイドに流し、小金を貰っている男。
情報を流すという性質上、「お前さぁ…」と何度も思わされたキャラ。作中中盤で身の上を語り一度は改心するようなシーンがあったが、その後生活の厳しさからか元に戻ってしまった。
ここのシブタレにはガッカリしたが、「まぁそんなに上手くはいかないよな…」という気持ちにもさせてくれる。
ただ最終盤、クライマックスを超えた後の作中最も辛いであろう局面で彼が切った啖呵は圧巻だった。1ページを丸ごとぶち抜いてマシンガンのごとく放った最期のセリフ群も忘れられない。
彼の素行の悪さ、そして死が確定している土壇場でようやく覚醒するというアツさは、思春期に触れていたら何かしら良くない影響を受けていただろうと感じる。
上記試し読みのうち、人物紹介の2ページ目に載っている。
いかにも小物で悪そうな顔をしている。
第3位:水無月右近
序盤に道場破りとして登場し、その後心境が様々に変化していく人物。片足を失っており、杖をついた姿が印象的である。
はじめはニヒルな雰囲気を漂わせていたが、徐々に飄々とした性格に変わり、それにつれて表情も変わっていく。しかし、終盤では愛する人の死により生きがいを失い、ヤケクソになってしまう。
各巻冒頭でのキャラ紹介文や表情が心境に応じて変わっていくのが楽しく、いつしか好きになって言ったキャラだが、それだけに終盤での紹介文はさみしかった。
最終巻ではついに紹介コーナーから姿を消してしまったが、初めて読んだ時はそれを信じられず何度か確認してしまった。
生きがいを失った彼がその辺にいた烏によってあっさりと目を抉られ、その後(物語的には)何の意味もなく死んでいく流れは本当に悲しい。
劇的な活躍なんてなくてもいいから、生きていてほしかった。
どうでもいいことだが、まだシリアスな強キャラだった彼が安く傷んだ茶漬けを食ったことが原因で腹を下し、その後宿敵たる横目に相対するもついに脱糞し、それが原因で横目に逃げられた上に漏らしたことがバレてしまう一連の流れには尊厳破壊を感じた。右近(ウコン)がウンコて…。
彼の性格の遷移は魅力的であり、「中学時代にカムイ伝を読んでいたら、この人みたいな飄々としたキャラに憧れてる中途半端なヤツになっていただろうな…」という確信を与えてくる。
上記ページの人物紹介に載っているのは、初期の水無月右近。なかなかニヒルな出で立ちである。
一人だけ全身を描いてもらっている。ずるい。
こちらは中盤の水無月右近。
ニヒルと紹介されてはいるが、心なしか表情が柔らかい。
人物紹介で最後に描かれた水無月右近。
絵柄の変化もあるが、もはや別人である。つらい。
第2位:赤目(市)
主人公カムイの、忍者としての師匠。忍者組織から離脱して抜け忍となり、カムイを含むかつての仲間から追われる立場となる。
その後は夢屋七兵衛という商人とタッグを組んで市と名乗るようになり、彼の陰で活躍するが、次第に七兵衛のスタンスに対して疑問を持ち始める。
主人公の師匠ということもあり非常に強いが、忍者であるにもかかわらず優しさを捨てられないのが弱点。
カムイとは師弟であると同時に追われる者・追う者という複雑な関係でもある。追手の一人がカムイに化けて近づき、情に訴えようとした際は「カムイは今の俺に殺されるほど弱くない。仮に今のが本物だったら、生きる値打ちがない」という理屈のもと看破し、瞬殺している。
特徴や描写を羅列してみたが、今この時代に見ても掛け値なしにカッコいいキャラ造形をしている。あざといとすら言われるだろう。
何しろ「甘さを捨てられない」というキャラクターとしての欠点は、忍者にとっては致命的な弱点だが、キャラクターとして見ると魅力的でしかない。
最期も避けられたはずの銃弾を避けずにわざと七兵衛に撃たれて死ぬというものであり、なんというか全体的にとてもズルい。顔もゴルゴ線のようなものがあり、渋くて良い。
このキャラクターは子供の頃に触れていたら、間違いなく人格面に大きな影響が出ていた。
あらゆる要素を見直すにつけ、思春期に赤目と出会わなくて良かったとヒシヒシと感じている。
上記ページのうち、2ページ目右上にいる男前が彼である。
ちなみにその下にいるのが、彼の相棒的存在の七兵衛である。
第1位:小六
カムイ伝といえば彼の存在は欠かせないだろう。
小六は序盤にて、とある出来事をきっかけに精神に異常をきたし始め、娘を亡くした上にその亡骸に惨い仕打ち(遺体をズタズタに斬られた挙句、牛馬の死骸と同じ場所に捨てられ引き取りもできない状態にされる)を受けたことにより発狂する。
その後は最終盤まで発狂した姿で度々登場する。
推しキャラという視点を抜きにしても、本作で最も印象に残ったキャラクター。
様々なシーンで狂った笑いを上げる彼が描かれており、独特の雰囲気を作り出していた。どんな場面であろうと、イヒヒヒ、ウヒヒヒなどと笑いながら徘徊する彼が描かれるだけで絵になる。
また、百姓だろうが侍だろうが、彼に対しては同じように接しているのも印象的だった。たとえば彼に小便を引っかけられた侍がいたが、「こいつは狂っているんです」といった説明を受けることで呆れつつも怒りを収め、処罰などを行うことはなかった。
狂人への哀れみや見下しが背景にあるだろうとはいえ、発狂によって身分の垣根をある種超越している様子が、個人的にはとても好きだった。
終盤で行われた狂人である彼への拷問シーンは、同じ作者の短編作品『変身』において忍者と間違われて拷問を受けた少女を思い出した。
その少女は、精神に異常をきたしているが故に拷問のことごとくに平然と耐えて相手の忍者を心底ビビらせ、最終的に肉体の限界が来て死亡する。なお相手の忍者は最後まで少女を忍者だと思い込んでおり、その精神力に敵ながらリスペクトを示していた。
小六も彼女と同じ運命を辿るのではないかとヒヤヒヤしながら読んでいたが、その後の展開は予想を超えるものだった。
彼はクライマックスでとんでもない変貌を遂げて百姓一揆の戦場に参戦したのだ。その変わり様は、おなじみの特徴的な笑い声を上げるまで小六だと気付かず読み進めてしまった程だった。
馬に前後逆に跨って山伏のような服装で戦場に現れ、突然の登場により敵味方関係なく周囲の人々全てを畏怖させ、罵詈雑言交じりの荘厳かつ長い言葉を叫びながら百姓達を勇気付け、武士たちを罵倒し、着込んだ鎧で銃弾を弾きまくりながら例の特徴的な笑い声を上げ、右足を吹き飛ばされても全く怯まずにいつもの狂った笑い顔を見せ、その勢いのまま敵将を一騎打ちの末にぶち殺し、たった一人で百姓達を勇気付けて死をも恐れぬ「不死身の集団」に変貌させた彼は無敵そのものであり、読んでいてすさまじいカタルシスを感じた。
最終巻では、キャラ紹介および本編の描写にて変貌した理由の一端が語られる。
本作における彼の最後の登場シーンは、クライマックスでの活躍が嘘のようにさみしいものだった。
彼に関しては、多感な時期に読んでいたら「性癖が歪む」などという生易しいものではなく、「価値観をひっくり返される」というのが正しいだろう。どのような影響を受けていたか、想像もできない。それほどまでに魅力的なキャラクターであり、最後の大立ち回りは本当に衝撃的だった。
彼の人物紹介。なかなかストレートな紹介文である。
セリフが少ない彼だが、人物紹介には数多く登場している。
終わりに
昨年から、白土三平作品にハマった。はじめは短編・中編を購入して読んでいたのだが、最近ついに大長編たる「カムイ伝」に手を出してしまった。
冒頭に書いた通り、全編についての感想をいきなり書くのは難しいため、もっと簡単そうな切り口で書いていこうと思い至った。
全キャラに対する感想を登場順に片っ端から書くのはどうだろうとも思ったのだが、流石に断念し今回の形に至る。
未読の方がいたら、本当にお勧めしたい。すべて買うのはなかなかキツいものがあるので、図書館で読み進めるなどの方法でも良いので読んでほしい。本記事では上記キャラクターについてのネタバレはしたが、「カムイ伝」の面白さはこの程度で損ねられるものではない。その証拠の一つに、主人公カムイも実質的な主人公の正助も、本記事ではほぼ名前しか出ていないのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。